栃木県の県庁所在地、宇都宮には2つの宇都宮駅が存在します。
ひとつは明治時代に開業した、現在のJR宇都宮駅。もうひとつは昭和に入ってから誕生した東武宇都宮駅です。
仮にこの両駅が近い距離で繋がっていて、JR線と東武線を数分で乗り換えられたら非常に便利ですが、残念ながら1.8km離れて現在に至っています。
それぞれの駅がどのような経緯で誕生したのか、その発展には観光地日光も関わっています。これまでの歩みを振り返りながら、1.8kmを繋ぐLRTの延伸計画についても触れてみたいと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。
歓迎ではなかった宇都宮駅
宇都宮駅が誕生したのは、明治18年（1885年）のことでしたが、当時の宇都宮はかなりの押せ押せムードだったと想像します。
明治6年（1874年）に栃木県と宇都宮県が合併して、県庁所在地は県南に位置する現在の栃木市に設定されました。
その当時の栃木市は水運で東京と繋がっており、この一帯の物流の要所でした。
しかし宇都宮としては、古くから宿場町、城下町として栄えて、人口や経済規模で圧倒的に県内随一を誇っていたので、県庁を宇都宮に移転させることは自然な主張だったと思います。
その一方で、県庁所在地としての栃木市はもちろん反対運動が起こり、やっと宇都宮への県庁移転が決まった頃に、現在の場所に宇都宮駅が開業したわけです。
この宇都宮駅の建設、決して地元からウェルカムではなかったようです。中継地点として栄えてきた宇都宮にとっては、鉄道が開通することでただの通過ポイントになることを避けたい思惑が大きかったようです。こうして反対意見に押されて、街の中心街から離れた川の向こう、何もないような場所に建設されることになりました。
こうして宇都宮駅は誕生したわけですが、そのわずか5年後には現在の日光駅まで鉄道が延伸されます。
もともと様々な目的の人々が往来して、古くから栄えてきた宇都宮でしたが、結果的には鉄道を使って東北や日光に行く観光客が加わり、宇都宮がますます栄えるきっかけとなりました。
栃木県における交通の主役は、東京と水運で繋がっていた栃木市から、鉄道で繋がった宇都宮市へと移り、日光は要人にとっての避暑地として最盛期を迎え、時代は大正昭和へと続きます。
市街地に参入した東武宇都宮駅
宇都宮駅誕生も含めて、栃木県の変化を間近で見ていたのが東武鉄道です。
東武鉄道も昭和4年（1929年）には東武日光駅が開業して、宇都宮を経由しなくても東京から日光まで直通で行ける東武日光線を開業しました。
日光観光を日帰りで可能にしたアクセスの影響は爆発的なものがあり、その後何十年も続く国鉄日光線と東武日光線の争いの幕開けとなりました。
その東武鉄道が注目したのが、県庁所在地となった宇都宮市です。県庁を譲った栃木市は、東武日光線のルート上にありましたが、新旧の県庁所在地を直通で繋げる鉄道はない状態でした。
東武日光線の成功が後押しとなり、その勢いで東京～栃木市～宇都宮市を直通させようと、昭和6年（1931年）に東武宇都宮駅が開業、東武宇都宮線が誕生しました。
後発となった東武宇都宮駅ですが、刑務所の跡地をめぐって様々な活用方法を模索していたタイミングだったことが幸運となり、宇都宮の中心地に建設されました。
さらには地元からの、百貨店を建設してほしいという要望に応える形で、昭和34年（1959年）に東武宇都宮百貨店も開業、この3階部分に駅が構える構造となりました。
結果的に東武宇都宮駅の周辺もますます栄えていき、宇都宮二荒山神社、県庁や市役所が徒歩圏内、専門店が立ち並ぶオリオン通り（上写真）にも隣接という理想的なロケーションとなって現在に至っています。
ふたつの宇都宮駅
国鉄と東武鉄道のふたつの宇都宮駅が誕生しましたが、市街地から離れた場所に開業した国鉄宇都宮駅はやがてJR宇都宮駅となり、その周辺は西口を中心にどんどん人やビルが集まっていき、現在の姿に近づいていきます。
乗り継ぎすることだけを考えると、この中途半端に離れた1.8kmは非常に不便ですが、宇都宮が一極集中ではなく、ふたつの駅を中心として面的に発展していったことで、北関東最大の50万人都市が生まれる土台が完成したと見ることもできそうです。
20世紀の終盤に、郊外型の大型ショッピングセンターが台頭するまでは、ふたつの駅を結ぶ大通り一帯はまさに市や県を代表する繁華街でした。
郊外型レジャーの台頭
2000年以降は大型ショッピングセンター、ショッピングモールが日本各地に完成します。
宇都宮においても例外ではなく、インターパーク（上写真）やベルモールのような、多少遠くても広々とした無料駐車場がある大型商業施設に外出する、そのようなライフスタイルが広がっていきました。
宇都宮の市街地を囲むように環状線が完成して、いつの間にか、JR宇都宮駅や東武宇都宮駅ではなく、この環状線が生活動線の主役となってしまいました。
中心街の老舗デパートが撤退したり、オリオン通りも大人しくなってしまった時期もありました。象徴的だったのは、大通りの宇都宮二荒山神社の正面にあったパルコ（下写真）の撤退です。
宇都宮市民としては、中心街が寂しくなるのはイヤだけど、実際に買い物に行くのは無料駐車場があって用事が全部済んでしまう大型商業施設、そういった矛盾を抱えていた市民も多かったのではないでしょうか。
LRTが移動の主役になる？
この市街地の空洞化に対する解決策として、宇都宮で推進されているのが2023年に一部開業したLRTです。
新設の路面電車で、市内の渋滞解決や将来に向けたコンパクトシティ化を進める取り組みは、全国的な注目を集めています。
すでに開業から2年弱が経過しましたが、今のところ乗降客数や駅周辺の開発などは順調に推移しているように感じます。個人的には観光動線としての機能がないので、成功するかどうか疑問視していた部分もありましたが、ベルモールへの移動や周辺住民の積極的な利用があることで定着が進んでいるようです。
このLRTですが、先行開業した東側に続き、2030年代には西側にも延伸する予定です。
これによって、環状線に囲まれた宇都宮は、LRTが東西に貫く形となりますので、また交通事情が次のステージに進化することになりそうです。
LRTが生活に溶け込むことによって、クルマがなくても生活できる街が実現できそうですが、もうひとつ大きな目的としてJR宇都宮駅と東武宇都宮駅を結ぶことがあります。
この1.8km離れたふたつの宇都宮駅が、LRTで結ばれることによってクルマやバスを使わなくても、市街地全体を行ったり来たりすることができるようになります。
観光客にとっては
東北新幹線でJR宇都宮駅に来てから
→LRTで移動して
→東武百貨店やオリオン通りに向かう
といった新たな観光動線が出来上がります。また
東武宇都宮駅に到着してから
→LRTで宇都宮を満喫して
→JR宇都宮駅から観光地日光を目指す、といったルートも考えられます。
LRTを西側に延伸するにあたって、生活面、観光面では大きなメリットがありそうですが、東武宇都宮駅にどのように接続するのか、このあたりは課題も大きいようです。
東武線とLRTの接続はどうなる？
現在の東武宇都宮駅は、大通りから200m程度離れた場所にあり、西側にLRTを通すとなっても結局は微妙に歩かなければならないという問題があります。
首都圏であれば200mの乗り換えなどは日常茶飯事でしょうが、アーケードでも造らないと、この距離を雨の日に移動するのはちょっと大変です。
このアクセスを改善するために、東武宇都宮線とLRTの乗り入れ構想が進んでいます。技術的なことはここでは省略しますが、これがもし実現すれば、LRTがJR宇都宮駅を出発、東武宇都宮駅で分岐してLRT車両のまま栃木市方面に向かうことができるようになります。
東武百貨店は、すでに開業から65年以上が経過しており、その建て替えとセットで駅全体の大規模リニューアルが行われると思いますが、どのような形でLRTと接続するのか今から楽しみです。
個人的には技術面や権利的な事情を除いて考えると、撤退したパルコのビルは建築から30年程度しか経っておらず、居抜きで入るなら東武百貨店だろうな、と勝手に予想していました。駅をどうする問題はありますが、大通りに面しており、この窓が少ない巨大なビルを使い切るには「百貨店＋駅」のような選択しかないだろうという予想でした。
この予想は見事に外れて、今のところ、大手スポーツショップが本社機能として使う予定らしく、どのような街並みに変わるのか注目したいところです。
いつもは日光を中心に解説しているチャンネルですが、今回は日光との繋がりが深い、東武鉄道や宇都宮にスポットを当ててみました。
LRTと東武鉄道がどのように接続するのか、LRTの先行開業した東側と西側の接続は本当に実現するのか、観光動線はどのように変化するのか、これからの進化を一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。
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最後までご視聴ありがとうございました。また次の動画でお会いしましょう。
