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【職能主義と職務主義の違い】メリット・デメリットを解説

転職の場面で話題になることが多い、職能主義と職務主義について解説します。

企業によるキャリア形成、自分自身によるキャリア形成、という考え方が徐々に広がってきて「どのようにキャリアを積もうかな…」1人1人が考える時代になりました。

その際に大切になる考え方が、職能主義と職務主義です。聞いたことのある方も多いと思いますが、イマイチ「何が違うの?」とか「どっちがどっちかわからない…」という方の参考になると思います。

 

転職エージェント(国家資格キャリアコンサルタント)として、1,000名以上の転職支援を行ってきた経験から、ポイントをまとめて紹介します。

職能主義とは?

職務主義をシンプルに表現すると、会社(人事や上司)が

「あなたが仕事でどのような結果を出すのか、よりも、あなたが持っている能力自体を評価します」

ということです。

日本型雇用と相性が良いです。

「あなたの能力に対して評価する」という表現が最初はピンとこないかもしれませんので、少し具体的な例で解説します。

 

あなたが、ある会社の営業職として働いていたとします。月収は40万円です。

人事異動により、ある日から購買部門で働くことになったとします。あなたには購買の経験が皆無だったとしても、多くの会社では給料はそのまま維持されることになるでしょう。

多少変化があったとしても、営業手当がマイナスされるくらいで済むケースが多いと思います。これは会社の評価の仕方が、職務主義に基づいているためです。

つまり

・あなたの営業職としての活躍は評価している

・あなたが購買に携わったとしても、同じくらい活躍すると見込んでいる

・あなたが持っている、仕事をこなす能力自体を評価しているから、給料は変わらない

という考え方です。

 

人事異動のたびに、未経験の評価をされて給料が下がってしまったら、誰も人事異動をポジティブには受け入れられないですよね。

「あなたの能力に対して評価する」という職能主義は、長く勤めて転勤したり、人事異動を経て昇進していく日本型雇用にピッタリの仕組みです。

もちろん、良いことばかりではないので、メリットとデメリットをそれぞれ整理して解説します。

 

職能主義(企業のメリットとデメリット)

【メリット】

・社員が定年退職まで勤めることを前提としており、長期にわたって社員育成を行いやすい

・長く勤めるほど、会社内での業務スキルや社内外のネットワークが蓄積されていくので、結果的に会社への貢献度が高まる

・転職すると、転職先では職能(評価)が低い状態からのスタートになるので、社員が辞めにくい

・会社の方針に沿って、戦略的な人事異動を行いやすい

【デメリット】

・スキルの高い若手社員よりも、社内外のネットワークが強い中堅社員が評価されることになるので、会社への貢献に対する公平性が低い

・年功序列で給料が決まるので、スキルと給料のバランスが悪い(給料が高すぎる)中堅社員や役員が発生する

・一度高い評価をしてしまうと、評価(給料)を下げにくいため、利益圧迫の原因になることがある

・マネジメントポジションの中途採用では、周りのベテラン社員とのバランスを考えなければならず、高待遇での採用が難しい

 

以上をまとめると、会社にとっての職能主義は

・社員を長期的に育成しやすい

・スキルと給料のバランスが崩れやすく、損益にも悪影響を与える

といった特徴があります。

 

職能主義(社員のメリットとデメリット)

【メリット】

・終身雇用、年功序列を前提としており、何十年も働くうえで安心感がある

・会社の方針や(場合によって)本人の希望により、社内で様々な職種を経験できる

・長く働くこと自体が評価に直結しやすいので、スキル習得や成果よりも「まずは長く働く」に集中できる

【デメリット】

・スキルに対して直接評価が下されるわけではないので、給料や待遇は社内規定の範囲でゆっくりとしか上がらない

・こなしている業務量と給料が比例せず、単純にベテランの方が給料が高い

・オールマイティ社員を育成するためのカリキュラムに沿って、ゆっくりとスキルを習得することになる

・何かに特化したキャリアを積むのが難しく、転職においても基本的には給料が下がった状態からの再出発になる

 

以上をまとめると、社員にとっての職能主義は

・長く働ける安心感がある

・長く働いているだけで、ベテランの方が給料が高い

といった特徴があります。一長一短がありますが、次に解説する職務主義と合わせて、どちらの視点からでも、自分のキャリアを振り返ることが重要だと考えます。

 

個人的には「職能主義が無意識レベルで浸透している」ことが、組織のアップデートやキャリアの振り返りを邪魔していると感じますね。

昭和の高度成長期は、新卒採用が毎年増えていって、自然と組織が大きくなり、マネジメントポジションも増えていきました。入社した会社で長く勤めるメリットが大きかったわけですが

・大企業=安全、とは限らない

・老舗企業=安全、とは限らない

・若手社員の絶対数が減り、争奪戦になっている

そんな時代に職能主義はマッチしない、この現実も見えてきました。

 

職務主義とは?

職務主義は、ざっくり表現すると(欧米的に)スキルや成果のみを評価する仕組みです。

「年齢や性別、経験にも関わらず、あなたのスキルや成果に対して評価します」

という仕組みです。

ジョブ型雇用とも呼ばれ、欧米型雇用との相性が良いです。

職能主義(日本型雇用)とは異なり、その会社で長く勤めているかどうかはほとんど関係ありません。「どのようなスキルを発揮できるのか?」ここにフォーカスしていますので

・会社は必要なスキルに対して給料を支払う

・だから、社員はスキルアップに専念しなければならない

という、ある意味シンプルな会社と社員の関係性になります。

上記の例では、営業職のあなたが購買部門に異動するケースでしたが、イメージとしては

・あなたは、とにかく営業職としてのスキルを磨いて、成果を出す必要がある

・営業職に適性がないと評価されたら、雇用契約が終了するか、別な部門に異動する

・あなたが営業職として大きな成果を出しているなら、もっと高い給料の会社に転職する(ヘッドハンティングされる)

このような感じです。

「会社は営業に関するプロフェッショナルとして、あなたに期待している」

「だから、ベテランよりも成果を出したなら、(当然)ベテランよりも給料をください」

これが職務主義です。「務」は「ミッション」のように解釈すると、すんなり理解できると思います。

 

職務主義(企業のメリットとデメリット)

【メリット】

・有期雇用契約が基本であり、成果を出せる社員のみを雇うことができる

・「ベテラン=管理職=高待遇」とならないので、スキルに見合っていない給料のベテランがいなくなる

・会社にとって必要な専門職に対して、充分なスキルを発揮してもらうので、会社全体の生産性が高くなる

【デメリット】

・より高い給料、より良い待遇を求めて、スキルのある社員ほど退職しやすい

・若手社員にも高い給料を支払うケースが多くなるので、人件費(≠人件費率)が上がる傾向になる

 

職務主義(社員のメリットとデメリット)

【メリット】

・自分のスキル向上によって、給料などの待遇向上に直結する

・スキルや成果に応じて給料が決まるので、社員間での給料格差に納得感が高い

・転職によるキャリアアップが実現しやすく、転職による給料ダウンを避けられる

【デメリット】

・有期雇用契約が前提なので、雇用(生活)の安定感が低い

・在社期間と給料が比例するわけではないので、若手社員との逆転現象が起こる

・キャリアアップを自ら行う必要があるので、自己投資を常に行わなければならない

 

以上をまとめると、社員にとっての職務主義は

・スキルアップを重ねて、専門職としてのキャリアを築く

・自分の雇用(給料)は、自分で守る(上げる)意識が必要

といった特徴があります。

極めたい分野があって、その強みをどんどん伸ばしたいのであれば、職務主義は完全にハマります。専門職としてキャリアを積みながら、スペシャリストを目指すのか、マネジメントポジションを目指すのか、長期的に考える必要はありますね。

 

まとめ

職能主義と職務主義の違いを、それぞれのメリット・デメリットをまとめながら解説しました。その時代によって呼び方が変わったり、会社によっても「ジョブ型雇用を推進します」の中身は大きく変わることがあると思います。

 

あなたが職能主義、職務主義のどちらを希望するのか、また入社した会社の人事システムがどのようになっているのか、しっかり振り返って考えてみましょう。人事システムについては、制度上の説明と実際の社風が全然違う…そんなことも普通にありますので、事前情報を鵜呑みにしないことが大切です。

 

個人的な見解ですが、2020年代前半は

・本業では職能主義を意識して、組織のなかで幅広いキャリアを積む

・副業(趣味)では職務主義を意識して、何かに特化してキャリアを積む

このような働き方が、リスクが少なくて理想かな?と考えています。

あなたにとって、理想的なキャリア形成のヒントになれば幸いです。