宇都宮市にあります文星芸術大学で行ったキャリアガイダンス、今回の講座が今年度最後です。講座のタイトルは【労働市場と雇用形態】です。
- 早く社会に出て働きたいですか?
- 転職する人の割合
- 昭和時代は終身雇用がハマった
- 平成時代は価値観がバラバラになった
- 令和時代は自分で生涯設計をする時代
- あなたは1社目で何年働くと思いますか?
- 正社員の働き方とは?
- 派遣社員の働き方とは?
- 業務委託(フリーランス)の働き方とは?
- 日本型雇用の良いところ・悪いところ
- 雇用の安定とは?
- キャリアはかけ算して価値を上げる
- 「敗因の99%は自滅である」
- 人生を分けているのは、タイムラグ(時間差)に対する理解
これまでの日本型雇用をダイジェストで振り返りながら、これからどのようなスキルや考え方が必要になるだろうか、アンケートを行いながら解説しました。
早く社会に出て働きたいですか?
早速ですが、生徒にアンケートです。
「あなたは早く社会に出て、仕事してみたいなぁと思いますか?5段階で考えてみてください。またその理由も教えてください」
①早く卒業して働きたい
②2年後に就職でちょうどいい
③どちらかというと働きたい
④どちらかというと働きたくない
⑤考えたくもない…
結果は以下の通りでした。
①11%
「経済的に自立したい」「お金を返したい」
②39%
「やりたいことが決まっている」「奨学金を返すため」「目標を決めて準備したい」「まだ技術が足りていない」
③22%
「働かないと生活できない」「働いた方が良いと思う」
④22%
「趣味、創作、好きなことに使える時間が減る」「あまり希望が持てない」「ちゃんと働ける自信がない」
⑤6%
「どの仕事が自分に合うかわからない」
正直に答えてもらったと思いますが、①②③で合わせて72%です。2年生であることを考えると、意外と多い印象でした。いつかは社会に出て働くことになると思いますが、今回の講座では業界や職種を問わずに、就職後のキャリアについてイメージしてもらいたいと考えています。特に「転職」という人生の節目にフォーカスします。
転職する人の割合
男性では30代後半になると「転職したことがない」は半数以下です。女性に至っては、ライフイベントの影響が大きいこともあるでしょうが「転職したことがない」は30代前半で半数以下となります。
(全国就業実態パネル調査2021年より)
転職することが当たり前になり、特別なことではなくなりました。この傾向はこれからも続くと思います。昭和の時代はどうだったのでしょうか。20年単位で区切ったイメージ(下図)を書いてみました。
昭和時代は終身雇用がハマった
グラフの横軸は年齢なのでわかりやすいと思いますが、縦軸は年収+働く時間+意欲+体力で表しています。強引に表現すれば、キャリア(人生)の充実度です。
赤い線が昭和時代の働き方ですが、20才~40才にかけては、体力に任せてガンガン働くイメージです。人口は増え続け、経済成長も続き、働けば働くほど収入に直結した時代です。40才を超えて課長や部長などの役職で、ある程度の収入を得ながら定年60才を迎えます。そこから先は働く人は少数派になり、多くの人は転職することなく、1社でずっと働き続けていました。赤い線は1本の山なりカーブです。
終身雇用の前提で「自分の成長=会社の成長=日本経済の成長」という図式がハマった時代です。
平成時代は価値観がバラバラになった
大企業が倒産したり、吸収合併が起きたり、工場の海外移転、労働市場のグローバル化など働き方の変化が起きました。「ブラック企業」という言葉も生まれて「収入よりも自分の時間」や「収入よりもやりがい」という風潮が強まった時代です。
また、多くの自然災害が起きて、人生を考え直す機会が増えたこともあるでしょうが、終身雇用に疑問を持ち、キャリアアップを目指して転職をする人が増えてきました。
派遣社員の問題(後述)や雇用形態による格差も課題になりました。その平成時代の働き方は下図のようなイメージです。
青い線が途中でガクンを落ちていますが、そこで転職して年収が落ちていると考えてください。およそ30才前後で家庭を持ったり、価値観が変わってきて転職をします。「転職して環境を変えよう」というモチベーションで転職していた時代です。
転職することが恥ずかしいことではなく、徐々に社会的に認められてきたのが平成時代です。特に前半までは、転職支援サービスも充実しておらず、現職を辞めてから「自分ができる仕事を探す」という転職の仕方でした。自分のスキルや経験を活かすというよりは、その時に募集している求人から消去法のように選ぶので、転職によって年収が下がることは当たり前でした。よって青い線は、ギザギザのノコギリ型になっています。
令和時代は自分で生涯設計をする時代
令和になると、転職したことがない人が少数派になります。転職支援サービス(人材紹介会社、転職エージェント、ヘッドハンティング)が充実してきて、年収やエリアに関わらず「チャンスがあれば転職」という時代になったと感じます。その令和時代の働き方は下図のようなイメージです。
緑の線が20代、30代と伸びていきますが、転職することが当たり前の時代になると「次の20年をどのようなキャリアにしていきたいか」を念頭に働くようになります。趣味や副業としてスタートできる仕事も増えていき、働きながら転職やキャリアチェンジを考えるようになった時代です。収入の急落もなく、転職によるリスクは減ります。
緑の線はいくつも重なりますが、仕事をしながら、学校に通ったり、オンラインサロンで学んだり、新しいコミュニティに飛び込んだり、創作してアウトプットしたり、これらを平行して進めているイメージです。カンタンに表現すると、自分の成長を会社任せにするのではなくて、自分からキャリアを描いていくことが、現代のキャリア形成の理想形です。70才前後でも、グラフが右肩上がりになっていることも特徴です。
よって緑の線は、いくつものキャリアが重なった連山型になります。
まとめると
・1社で勤めて人生を過ごす昭和時代
・リスクを冒して、できる仕事を探す平成時代
・できる仕事を増やす令和時代
と表現できそうです。この時代に飛び込むのはラッキーだと思います。このあたりは個人的な感覚ですが、最後まで1社で勤めるのが当たり前、という空気で人生を送る方が様々なことを我慢するのではないでしょうか。
あなたは1社目で何年働くと思いますか?
次のアンケートは「あなたは、最初に勤める会社で何年くらい(いつまで)働くと思いますか?」です。
結果は以下の通りでした。
◇できるだけ長く 31%
「問題なければ続けたい」「面接が苦手だから」
◇3年 25%
「いろいろやってみたい」「とりあえず様子見」「学校と同じ感覚で」
◇4年 6%
「自分を試したい」
◇5年 13%
「いい感じなら続けたい」「スキルアップしたい」
◇3~5年 6%
「一人前になり人脈ができるまで」
◇4~5年 6%
「奨学金を返済するまで」
◇他にやりたいことが見つかるまで 6%
◇すぐに辞めてしまうかも 6%
単純に1社で長く勤めることが、イコール良い、ではありませんが、長く勤めるにはその努力も必要ですね。勤める職種にも大きく影響されると思います。できるだけ長く勤めたいと回答した31%は、全国の実態調査とほぼ同じなので、そこも興味深いです。
長く勤めることを考えると、正社員として働くことが前提になります。終身雇用が前提で、解雇になる可能性も非常に低いので「長く勤める=正社員になる」と考えてもらって大丈夫です。その他の雇用形態も含めて要点(下図)を解説します。
正社員の働き方とは?
先にも説明しましたが、正社員は「自分の成長=会社の成長」という関係です。ですから会社は、正社員として終身雇用して長い期間をかけて育てていきます。
様々な部署を経験することも多く、ひょっとしたらあなたが希望する仕事に配属されない可能性はありますが、安定感がある働き方です。所定労働時間があって、結局のところ「時間で給料をもらう」というスタイルです。
派遣社員の働き方とは?
派遣社員は「派遣社員に登録して、自分が希望する条件で働く」という働き方です。当然、希望する仕事(職種、エリア、時間、曜日)で働ける可能性が高いです。その代わり、働く現場となる会社との雇用関係はないので、あまり積極的に教育はされないことは想像できると思います。雇用期間も決まっているので、仕事が途切れてしまう懸念はいつもある感じです。
会社目線で考えれば、あくまで「今だけ忙しいから、必要な仕事を淡々とこなしてくれればいい」という働き方です。多くの場合は、時間(時給)で給料をもらうことになります。
ひと昔前の派遣社員は、専門的な職種に限られている特別な存在でした。デザイナーも早い段階から派遣としての働き方が認められていました。その頃の派遣社員は「ようこそ来てくれました。これができる人が社内にいないので助けてください」というありがたい存在でした。
会社側の都合として、徐々に人件費をコントロールしやすい派遣社員はもっと自由に使いたい、ということで営業や事務、やがて製造現場でも派遣の仕組みが取り入れられました。
「ようこそ」から「派遣って便利だな」に変わり、そのうち「この仕事は派遣でいいよ」このように、派遣を取り巻く環境は変わりました。リーマンショック(2008~2009年)で派遣切りが騒がれた時にも、切った切られたよりも、派遣社員はスキルがないので再就職できない現象が社会問題になりました。製造現場で同じことを毎年繰り返しているのですから、当然の結果ではありましたが、当時は派遣という働き方を望む人も多かったことも問題を大きくしました。
業務委託(フリーランス)の働き方とは?
デザインのスキルを磨いて社会に出ようとする人は、ひょっとしたらフリーランスとして活躍する夢を描いているかもしれません。自分の腕一本でやりたいことを叶える、このフリーランスという働き方も魅力的です。新卒でいきなりフリーランス、ということはないでしょうが、いったんはここを目指して経験を積むのは良いことだと思います。
業務委託という働き方は、期間ではなくプロジェクト単位で考えることが多いので、与えられた役割を時間内に、予算内で、望まれたクオリティで仕上げなければなりません。働いた時間で報酬が決まるわけではありませんので「成果=報酬」という関係性です。
現在の日本では、正社員としてキャリアを踏み出すのが間違いない選択になりますが、必ずしもそれが正解ではないですし、労働市場全体でも正社員の在り方を見直しましょう、という動きが出ています。
正社員としてのキャリア(日本型雇用)について、良いところ、悪いところを下図にまとめてみました。
日本型雇用の良いところ・悪いところ
日本型雇用の問題点は、大きく分けると2つあると考えています。ひとつは、自分の成長を会社任せにしてしまうことです。言い換えれば、ビックリするほど多くの人は働きながらの勉強をしなくなります。もうひとつは、雇用の流動性が起きないことです。
この2つは一緒になって起きる現象です。
・希望の会社に入る
↓
・安心する
↓
・会社に命じられた仕事をやる
↓
・この会社が順調ならいいなと願う
↓
・何年か勤めると成長が止まる
↓
・新しい技術や新人についていけなくなる
↓
・働かないおじさん問題
↓
・日本全体の成長や新しい産業の誕生が起きない
↓
・昭和時代から続く会社が、有名だし安心感がある
↓
・安心感のある会社に入社したい
この悪循環が「平成の失われた30年」を生みました。違う切り口でも平成時代を評価できるので、起きている問題はこれだけが原因ではありません。しかし、自ら成長する考え方が弱い日本のサラリーマン(ウーマン)が、激動の社会変化についていけない悲劇は避けなければいけません。
まとめの章です。これから社会に出るにあたって、何をどのように頑張れば良いのか、ポイントを下図にまとめました。
雇用の安定とは?
「安定している会社に入りたい」「成長している会社に入りたい」「ブラック企業は避けたい」様々な気持ちが入り混じって就職活動をすることになると思いますが、10年先まで絶対の会社なんてありません。
吸収合併されるかもしれませんし、大きな会社ほど外資に買われてまったく違う社風になるかもしれません。たった1つの不正で会社が傾くこともたくさんニュースで見てきました。
安心して働くためのコツを1つだけに絞るとしたら「どこに行っても安心な自分になる」これしかありません。日頃からスキルの幅を広げて、専門性を高めて、新しいことにもチャレンジして、何が起きても対応できるようにしましょう。これは教えられることではなく、1人1人が考えて習慣にしなければならないことです。
キャリアはかけ算して価値を上げる
あなたがもし、デザインを勉強してきたけれど、まったくそれを使うことのない仕事に就いたとしましょう。だとしても、デザインを勉強してきた経験は、必ずどこかで発揮されると思います。
例えばですが、小さな町工場みたいな会社で事務の仕事をすることになったとしても、デザインは何かしら続けながら、事務としてのスキルを磨くことを強くおすすめします。1つ1つは繋がりがないように見えても、ふと立ち止まった時に…
「デザインのことがわかる」×「機械部品に詳しい」×「資料作成が得意」
こういうスキルの増やし方をしている人は、かなりのレアカードになります。つまり、デザインだけの一騎打ちなら負ける、機械部品についても良く知っている程度、資料作成ももっと上手な人は山ほどいる、でも3つを叶えられるのはあなたしかいない、という状態です。
何か1つのスキルで飛び抜けて、その武器だけで戦うのはリスクが大きくなります。もっと強い敵が現れたら、負けるだけでなく、自信まで失ってしまいます。3つ以上のスキルをかけ算すると、そもそも勝負する人がいなくなります。
唯一の注意点としては、全部が中途半端だと、かけ算しても意味がないので、やってみるからには少しでも成果が出るまでやってみましょう。この考え方があると、全然違う業界に転職することも怖くなくなります。
「敗因の99%は自滅である」
個人的に大切にしている桜井章一氏の言葉です。負け知らずの麻雀をしたことで有名ですが、多くの現象に当てはまるこの言葉は強烈です。
誰もあなたの創作を邪魔する人はいません。あなたの就職活動を邪魔する人もいません。働くようになっても、ほとんど邪魔する人はいないでしょう。友達関係、お金、健康、何においても基本的には邪魔する人はいないと思います。
しかしなぜか、勝手に誰かと比べて自信を失くしたり、勝手に焦ったり、調子を崩したり、自滅するパターンがほとんどです。
スポーツだと短期で結果が出るのでわかりやすいですが、相手が強いから負けた…よりも、負け試合のほとんどは、自分達の力を出せずに負けるパターンではないでしょうか。
キャリア(人生)は長い自分との戦いですから、じっくり焦らず「自分は何がしたいのか、どういう人になりたいのか」を考えて、後悔のない日々を送ってもらいたいと思います。
人生を分けているのは、タイムラグ(時間差)に対する理解
やった方が良いとわかっていても、なぜ継続できないのか???
これは誰もが思っている悩みではないでしょうか。上に書いた自滅の話そのままですが、継続さえできれば人生違っていたんじゃないかな?と考えることは自然なことです。
結局のところ「成果が出るには時間がかかる」これが差を生むポイントになります。
わかりやすく、筋トレで考えてみます。シンプルにまとめてみると
・今日筋トレをやる
↓
・翌日ムキムキになっているわけではない
↓
・だから今日はやらなくていいや
↓
・翌日も筋トレをサボる
↓
・1日サボっても筋肉は目立って落ちない
↓
・安心する
↓
・だから筋トレをサボる
つまり、やっても成果がなかなか出ないからサボる。やらなくても、すぐにダメージが出るわけではないからサボる。タイムラグ(時間差)を理解していないと、やってもやらなくても無意識レベルでサボりやすいということです。
遠くに目標を設定するのは大切です。そして、ちょっとずつでもいいから継続することは大切です。あなたが3年生~4年生になり、ますます課題が厳しくなり、卒業制作にも追われることでしょう。就職活動にも苦戦するかもしれません。それでも「結果は先になってから」を信じて、今を頑張るしかありません。
わざわざ芸術大学を受験して入学してきた、そのマインドがあるあなたですから、今まさに勉強しているデザインをどうか継続して、いつの日かどういった形でも輝くことを応援しています。