栃プロ

栃木発「プロフェッショナルな自分を目指そう!」

【正社員vs派遣社員】【終身雇用vs解雇】【職能主義vs職務主義】比較して考える(文星芸大キャリアガイダンス2021年)

2021年度、文星芸術大学(栃木県宇都宮市)にて行いましたキャリアガイダンスの内容をまとめます。2年生に向けた通年のガイダンスということで、春は適性検査や適正診断で「自分を知る」というテーマ、夏は「芸大の学びと実際の仕事の関係性」ということで、主にデザイナーの仕事にスポットを当てました。秋は自己肯定感アップ、前向きに就活に取り組むための土台となる部分を考えました。今回の記事は、12月のテーマ「労働市場と雇用形態」をまとめています。

 

夏と冬の計5回の講座を私が担当しましたが、最終盤を任せていただけることはありがたいですね。「同じ働くでも、どんな雇用形態があって中身はどう違うのか?」を事前に知っておくことはとても重要なテーマなので、なるべくシンプルに、そしてポイントを絞って伝えたつもりです。

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労働市場をざっくりと知るためにデータ(全国就業実態パネル調査2021)を見てみましょう。いざ働いてから定年を迎えるまでに、いったい何社で働くことになるでしょうか?

男性の場合、1社で働き続ける人は29%です。30代後半になると、転職経験のある人がない人を上回ります。

女性の場合、1社で働き続ける人は17%です。30代前半になると、転職経験のある人がない人を上回ります。極端な書き方はしたくないですが、女性はかなりの割合で転職すると考えていいですね。どうしても周囲の環境変化、自分自身の結婚や出産のようなライフイベントによってキャリアが途切れてしまいます。

このデータは全年代を対象に行っていますので、これから転職するカウントは当然含まれていません。ここは私の肌感覚ですが、男性の転職割合は、公務員を除くと100%近いのではないでしょうか。女性は産休育休制度がしっかり整ってきたこともあり、数年前までは1社10%を切っていましたが結構伸びてきました。同じ職場に復帰する割合が高くなってきたということは「また戻りたい」と思える職場が増えたということなので、傾向としては企業にとっても本人にとっても良い流れです。

数字でざっくり見ましたが、転職自体が良いとか悪いということではなく、転職する方が普通だという意識で就活にも臨んでもらいたいです。

 

こういう講座では私はいつも話すのですが、すでに「大企業に入ったから安泰」という時代ではありません。大企業だって海外との熾烈な競争に疲弊している間に、ベンチャー企業が業界地図を塗り替えてしまう、こんな大逆転は当たり前の世界です。

「公務員になったら安泰」という時代ではもっとありません。公務員が何かのきっかけで転職することになったら相当大変です。頻繁に配属が変わりスキル習得ができない、経営感覚もない、ゼロからイチを生み出すような仕事の経験がない、などマイナス要因だらけです。真面目に仕事に取り組んでしっかり経験を積んでいる現役公務員もたくさんいるのはわかっています。ただしキャリアの客観的評価となると相当厳しいのも事実です。

結局「どうなるかわからない時代だから、どうなってもいいように準備する」これしかありません。

 

 

どうなってもいいように準備する、とは何をすれば良いのでしょうか?

まずは働くにあたって、どういう環境で自分のためにキャリアを積むのか?を考えましょう。その第一歩が雇用形態の違い、特に正社員と派遣社員の働き方の違いを知ることです。ひとつずつ解説していきます。

 

正社員として働くということは、単に「このくらい働いた」だから「このくらい給料をもらう」という関係では終わりません。国会をはじめ様々な場面で議論になりますが、日本の労働市場は2つの大きな特徴があります。

・正社員という終身雇用が前提の雇用形態がある

・企業は安易に社員をクビにできない

この正社員という雇用形態があまりに労働者を守り過ぎているので、雇用の流動化が起きない→社会人になってからの学び直しがほとんど起きない→結果的に日本全体のイノベーションが起きない、という弊害が目立つようになってきました。とはいえ企業が、正社員という労働者に安定を提供しているのは、良くも悪くも事実です。そのため、正社員として働くということは次のような関係性も自然と発生します。

・会社は安定を提供する

・正社員は「この会社のために頑張ろう」と感じる

・会社は長く勤めることを前提に考えて、正社員を教育する

・正社員は自分の成長によって会社に貢献する

このような目には見えない、数字には表せない繋がりがあります。反対にこの関係性に逆らったり無理があると、一気に働くことが辛くなります。古臭い表現ですが「恩は返す」という姿勢を持てるかどうか、これを基準に就活すると良いと思います。

 

同じことの繰り返しになりますが、正社員は長く勤めることが前提です。職場の雰囲気がそれなりに良いことも重要ですが「この会社で成長したい」と思えるかどうか、そして「(自分のことを)成長させた方が良い」と会社に思わせることができるかどうか、こういう視点を働きはじめてからも自問自答してもらいたいですね。これができれば、日本の正社員はぬくぬくしているだけで成長しない、なんて海外のエグゼクティブに言われません。「終身雇用も悪くないね」なんて思わせるかもしれません。

 

 

派遣社員はざっくりと歴史から振り返ります。

派遣という仕組みは古くは江戸時代からあったそうですが、1980年代までは禁止されていました。奴隷のように、という表現が当てはまるかどうかわかりませんが、人や労働というものを軽々しく扱う派遣会社(元締め)もいたりして、人材ビジネスの概念もありませんでした。

 

1986年に13の業種に限って、派遣という雇用形態、働き方が認められるようになりました。大きな特徴が2つ、今も根強く残っている悪習のような考え方、そしていつの間にか消えたまずまず良かった考え方です。

悪習は「常用代替の防止」です。簡単にまとめると「派遣社員が活躍すると正社員のポジションが危うくなるから、そうならないようにしましょう」という誰のためなのかわからない考え方です。常用代替の防止があるので、派遣社員の雇用期間は限られていました。今でこそ雇用期間が伸びたり、ある条件が揃うと無期雇用などの働き方もできますが、そうするためには正社員の過半数以上の賛成が揃わないとダメ!みたいな信じられない仕組みが残っています。

もうひとつは、今となっては信じられませんが、派遣社員は「スーパーお助けマン」でした。認められた13の業種は、秘書、通訳、添乗員のように特別なスキルが必要なものばかりでした。ですから、有期雇用でいきなり仕事を失っても、どこかで必ずニーズはあります。「スーパーお助けマン」は常に近くにいるわけではありません。どこか困っている職場で、限られた期間活躍して、収まったら次の職場へ移る、周りの正社員は「派遣さんが来てくれて助かった…」派遣社員はそんなプレミアム感のあるポジションだったわけです。派遣という働き方がまだまだ認知度が低かったのですが、企業のニーズはありますので徐々に対象となる業種が拡大していきます。

 

1996年には26の業種、インテリアコーディネーター、デザイナー、アナウンサーのように、やっぱり特別なスキルが必要な業種で派遣が認められるようになりました。ここでも派遣社員はありがたい存在です。派遣として働くプライドもあったことでしょう。

 

1999年、このくらいから派遣という仕組みが変わりはじめます。日本はバブル経済が弾けて「あれ?いつになったら景気が戻るんだろう?」なんて呑気なことを考えていた頃です。派遣は原則自由化(26業種は最大3年、それ以外の職種も最大1年の派遣契約が可能)となり、企業にとっては派遣社員で必要な戦力を揃えることができるようになりました。企業と労働者が終身雇用となる正社員採用をしなくても、営業、販売、事務などが派遣社員として働けるようになりました。企業にとっては「スーパーお助けマン」から「便利なハケン」です。ちなみに正社員採用って企業からすると、とても大変なハードルです。新卒一括採用で大量に内定を出して、そこから何年か教育して、いろんな部署を経験させて、しかも業績がどうなるかわからないのに終身雇用、これはものすごいリスクです。

派遣は「4月から営業事務が欲しい、時給は1200円、8時から5時、火水休み」のように条件だけしっかり明示すれば採用活動、雇用手続きをすることなく「営業事務ならある程度できます」みたいな人材を派遣会社が連れて来てくれます。しかも長期的な視点で育成する必要もありません。上手に派遣の仕組みを使う企業も増えました。

 

2004年、製造業も派遣OKになったのは非常に大きかったです。26業種は無期限、その他は最大3年、製造業は最大1年の派遣契約でしたが、この1年間の派遣契約というのが製造業にとっては最高です。景気やヒット商品の有無による忙しさの差が大きい製造業で、労働力を調整することができる派遣はとても歓迎されました。派遣社員が歓迎されたのもありますが、派遣が製造業に適用されたことの歓迎が大きかったと思いますね。こうなると、忙しい時期だけ揃えたい、そしてヒマになったら減らしたい、毎日単純作業だから正社員がやるのはもったいない、これらを全部解決するのが派遣です。

実は派遣という働き方を望む派遣社員が多かったことも、後々の大問題を引き起こしました。派遣社員は、決まった業務内容を契約で交わした通りの条件で毎日働きます。正社員のように「今日は課長が忙しそうだから、手伝った方がいいかな?」みたいに気を使う必要がありません。「課長がまだ働いているから、お先に失礼します、とは言いにくいな…」みたいな悩みも無用です。明日も明後日も同じ仕事です。「派遣の方が気がラクでいいや」となるのも無理はありません。「スーパーお助けマン」だった派遣社員は、いつの間にか「便利なハケン」となり、この頃には「誰でもできる仕事はハケンにやらせる」こんなポジションに成り下がっていました。

それでも派遣社員は、派遣契約が終了しても不安に感じることなく、また次の忙しい製造現場に移ればOKでした。リーマンショックが起きるまでは。

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2008年後半から起きたリーマンショックは世界全体の景気が悪くなったことが、バブル崩壊とは異なりました。バブル崩壊は基本的には国内だけの自滅でしたので、海外には景気の良い国があったり、東南アジアのように勢いのある国があったり、まだ活路を見出せたのですが、リーマンショックは製造業全体がダメージを負ったのが痛かったです。派遣契約の途中でも金銭を払って契約打ち切る「派遣切り」が横行しました。こうなると製造業で何年も派遣で働いてきた派遣社員は、世界中どこを探しても同じような仕事では働けません。製造現場は終身雇用である(つまり解雇できない)正社員の雇用を守る場となっています。

企業は派遣社員を「労働力の供給弁」のように考えていたので、派遣契約を途中で打ち切るのは、当然の判断でもあります。大問題となったのは、派遣切りで仕事を失った後に再就職できない現象でした。正社員は不景気で辞めないから求人数は増えない、同じような仕事を繰り返していたので30代になっても特別なスキルやマネジメントの経験がない、教育も受けてない、派遣社員にとっては全部が逆風でした。今でも残っていますが、派遣社員と正社員の壁(ヒエラルキー)みたいなものが生まれたことは、人材ビジネス全体としては悲劇としか言いようがありません。

派遣社員に対する社会の見方は正反対になりました。「派遣社員=正社員になれなかった人」という見方は根強いと感じます。派遣社員はある意味、自分が望む職種で、自分に合った働き方ができる理想的な働き方です。しかし企業に直接雇用されていない、終身雇用でもないのはリスクがあるので、しっかりキャリアを自分でつくる必要があります。残業がない代わりに、空いた時間で自分で何かしらキャリアアップを狙って成長するしかありません。

 

正社員と派遣社員のどちらが正解ということはありません。それぞれにメリットはあります。特にデザイナーのように限られた職種の場合、最初から派遣社員としてアシスタントの道を選ぶのもアリだと思います。結局のところ、何があっても大丈夫な自分にすることが一番の安心です。

 

 

最後に「職能主義」と「職務主義」について解説します。いかにもキャリアの講座に出てきそうなタイトルですが、日本が徐々に「職務主義」に移っていることは重要な変化なので、考え方を理解してもらいたいです。

「職能主義」とは、平成前半くらいまでは日本の労働市場において主流でした。職種が営業だとして一言で表すと「あなたの営業力に限定して評価しているのではなく、あなた自身の能力を評価する」という考え方です。営業として一定の成果を出していたとすると、例えば課長に昇進してチームをまとめるポジションになっても、営業と同じくらいの成果を出すでしょう、人事に移動して採用活動を担当することになっても、営業と同じくらいの成果を出すでしょう、というものです。人事部に異動してもほとんど給料は変わりません。「職能主義」は終身雇用で何十年もかけて、あちこちの部署を経験ながら幹部候補を絞っていく、日本の企業と非常に相性が良いです。短所としては、グローバル化で全世界で人材の流動が起きて、ものすごいスピードで変化する社会には合わないことです。

そこで「職務主義」です。諸外国は有期雇用で「職務主義」なのですが、こちらも一言で表すと「あなたの営業としてのスキルを評価している」です。スキルと給料が直結しますから、企業はより高い成果を出すためには、本当に成果を出せるスキルを持った人材だけを集めるようになります。その結果「スキル=給料」となり「スキル=より良い転職先を探す力」となります。

この「職務主義」に移行する流れは止まらないでしょうから、この先もっとスキルを持つ、スキルを磨くことが重要になります。どのように就活を乗り切って、やがて転職することになっても困らずに前に進めるのか、次回(最終回)にて解説します。