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海外富裕層向け【奥日光400万円プラン】申し込みゼロ!を考察する?

栃木県観光交流課の担当者によると「G7で盛り上がった場所。他の企画案はなく、一択だった」50人の利用を目論んだ結果はいかに...

栃木県が2023年10月中旬に販売開始した、海外富裕層向けの奥日光のスペシャルツアーが、まさかの申し込みゼロで終了しました。

これには同じ栃木県民としても「やっぱり」というか「がっかり」というか「そんなことやってたんだっけ?」というか、複雑な心境です。

申し込みゼロというのが、むしろ清々しい気持ちです。

結果が結果なので、ダメ出しするような表現が多くなってしまいますが、日光をはじめとする栃木の観光を盛り上げたい気持ちが根底にあることは先にお伝えしておきます。

今回の記事では、このツアーがどんなものだったのか?そして気持ちよく空振った原因、どうすれば当たったのか?を勝手に考察してみます。

 

このプラン、なんと「2泊3日でひとり400万円」という、かなり強気に攻めた価格設定でした。日光を知っている人なら

「日光旅行で、400万円を使い切るって逆に難しくない?」

という、バラエティ番組のネタにできそうなくらいの難易度です。

概要としては、東京のヘリポートから50分かけて奥日光までヘリで直行します。

交通渋滞を横目に、というか見下ろしながら、上空から名物の紅葉を満喫してから、中禅寺湖の畔に建つ、ザ・リッツ・カールトン日光に滞在。

同じく中禅寺湖畔に建つ、旧イタリア大使館別荘記念公園を貸切にして夕食を楽しんだり、専属ガイドが自然や観光地を解説して周遊するようなプランでした。

 

日光をかねてから知っていて、資産が余ってしょうがない海外富裕層がターゲットだったと思いますが、当初の締切としていた12月上旬で申し込みゼロ。

この結果には、栃木県、日光市、全額国庫負担している環境庁、旅行会社やヘリ会社まで「問い合わせフォームが壊れているんじゃないか?」のような焦りがあったと察します。

すでに紅葉の時期は終わってしまい、冬の絶景を楽しむプランにアレンジにして、食事先も変更、大幅値下げで290万円としましたが、2024年の1月末でも申し込みゼロ、そのまま敗戦となりました。

 

個人的には、同じヘリを使った2泊3日だったら、クルマでは行けないような秘境の絶景などに行ってみたいですね。

栃木県の担当者のコメントでは、事務手続きに時間がかかったことで、世界に向けて情報発信する時間が足りなかった、内容が固定しており柔軟性がないツアーに魅力を感じてもらえなかった、という分析でした。

ニュースでもさらっとしか紹介されなかったので、ひとりの日光を応援する身として原因を深掘りしてみたいと思います。

 

原因① 日光で2泊するイメージがない

少し古いデータですが、DMO日光が2018年に行った調査では、日光を訪れた海外からの観光客のうち、なんと56.7%が日帰りでした。これでは鉄道会社は儲かるでしょうが、日光の景気は良くならないです。

日帰りの理由は、最多が「他の予定が詰まっているから」その次が「日帰りで目的を達成できるから」という、どちらであってもちょっと悲しくなっちゃう理由です。

つまり、日光は東京からの日帰り圏内に入っており、東京~富士山~名古屋~京都~大阪を巡るゴールデンルートが本命だと察することができます。

日光に2泊するべき理由がある!という強烈な動機付けがないと、なかなか振り向いてもらえないでしょう。

 

原因② 全身に刻まれる体験イベントがない

いくら日光でG7が開催されても、日光の社寺が世界遺産に登録されても、そこに行って観光するだけなら誰でもいつでも行けますし、ガイドの案内も受けられます。

日光は実際のところ、日本の歴史上では大きな役割を果たしてきましたが、海外の方から見た最大の魅力は雄大な自然ではないでしょうか。

 

2019年にDMO日光がまとめているデータによると、日光旅行で満足したポイントのトップは、自然の景観(92.4%)です。

実は、日光に来た目的では、歴史文化や伝統(78.2%)がトップですが、その後の感想になると逆転するのは面白いです。

ただ面白がってもしょうがないのですが、この評価を真に受けるなら、せっかく満足してもらった大自然をもっと活かして、全身全力で体験できる企画があると魅力が増すのではないでしょうか。

 

原因③ ヘリの移動に魅力がない

日光のように観光地で渋滞にハマってしまうと、それこそヘリなどを使って、ひとっ飛びで目的地に向かいたくなります。その一方で、紅葉のいろは坂を訪れるマイカーは、自ら率先して渋滞に巻き込まれに行っています。

つまり、奥日光はヘリで行きたいほど渋滞がひどい!それでも景色が素晴らしい!という2つの情報を、相手が持っているかどうかがポイントになると考えられます。

日光に対して事前情報を持っていなかったり、以前訪れた際に渋滞でよほど痛い目に遭っていない限り、ヘリ移動の価値を感じられないのではないでしょうか。

地図上で見る奥日光は、ヘリで行くには近すぎるし、だったらスペーシアXの貸切で途中下車しながらゆっくり移動する方が、たくさんの感動がありそうです。

 

ではどうすれば良かったのか?

この先、栃木県が主体となって海外富裕層向けのツアーを企画することはないようですが、こちらもせっかくなので個人的なアイディアをまとめてみました。

 

プラン① ビジネス目的の商談・下見ツアー

ターゲットは日本進出を狙う外資企業です。

同じく日光にある鬼怒川温泉は、一部の廃墟群(上写真)が有名になってしまいましたが、中禅寺湖の周辺にも放置されたホテルや店が存在します。

権利関係を整理しておく前提ですが、そういった放置されている建物を売却して、リブランド、リニューアルオープンを提案するプランです。

観光地としての日光を満喫してもらうのはもちろんですが、その目的をビジネス上の商談・下見にすることで、日本に進出を狙っている外資企業をターゲットにするものです。

経営体力が厳しい日本企業に買収してもらうよりも、豊富な資金力でもって、まるで拭き掃除でもするようにカンタンに廃墟を片付けてもらい、新しいビジネスアイディアを吸収できるので、日光にとっても成長する大きな機会になるでしょう。

 

プラン② スペシャル体験を提供する

ターゲットは唯一無二の体験を買いたい富裕層です。

今回の400万円プランでは、ヘリで移動することを除くと、ほとんどのコンテンツは個人旅行でも充分に体験できるものです。

カンタンに表現すると、いくらお金を積んでも体験できないような日光旅行を、期間限定で販売するプランです。

・どこかの神社の別宮を建てることで、世界遺産の一部を手に入れられる

・日光の各所でライン下りやラフティングをする様子を、日本最高峰のクリエイターチームが映像作品に仕上げる

・チョコレート商品の開発に来日前から関わり、日光で最終仕上げをすることで日光とコラボレーションした商品を開発、全世界で販売する

実現可能性がゼロに近いアイディアもあるでしょうが、ここで表現したいのは、旅行をカスタマイズできなくてもいいから、これくらい振り切ったレアプランにしないと、まったく興味を持ってもらえないと感じます。

 

プラン③ 民間企業を巻き込んだコラボプランにする

ターゲットはとにかく日本を満喫したい富裕層です。

栃木県が提供するプランとしては前提条件が変わってしまうのですが、民間企業のチカラも借りて、日本の滞在全体を盛り上げることに全集中したプランです。

わかりやすいところでは、東武鉄道の協力を得て、浅草と日光を豪遊するのは面白そうです。HONDAジェットやドローンタクシーで、日光を拠点に日本中を飛び回っても面白そうです。

こういった、なんだか面白そう…という興味を得ることだけに特化して、プランを考えてみてはどうでしょうか。言ってしまえば、民間の力を巻き込んだ方が様々なノウハウがあるでしょうし、人生をかけて本気で取り組んでもらえると思います。

 

今回の記事では、勝手に奥日光400万円プランの反省をしてみましたが、いかがでしょうか。アイディアベースでは、何でも言ったり書いたりできるので、話半分に捉えていただきたいのですが、タイムリーな話題だったので地元民目線で思うところをまとめてみました。

 

 

冒頭で「この企画は一択だった」と紹介しましたが、絶対そんなはずない…というのが本音です。意見を集める範囲が狭いと思いますし、誰かのアイディアに若いスタッフが忖度した結果の惨劇ではないでしょうか。

 

観光戦略を考えるにあたっては、いろいろ思うところもあるのですが、また別の機会に紹介したいと思います。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。