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【川治温泉】鬼怒川温泉と違うの?大惨事と景気の波を乗り越えた現在

今回の記事では、栃木県日光市にあります川治温泉について紹介します。

日本屈指の温泉街である鬼怒川温泉のすぐ北に位置しており、避暑地である湯西川温泉と挟まれているロケーションです。少なからず中途半端感がある川治温泉には、どのような歴史や魅力があるのでしょうか?

 

勝手ながら、個人的にピックアップした3つのホテルの物語を通じて、川治温泉とはどういう温泉なのか、知っていただけると幸いです。

川治温泉の概要

川治温泉の歴史は古く、1723年(1718年の記録など諸説あります)までさかのぼります。

当時の長雨により五十里湖(現在の五十里湖とは別の場所)が決壊、男鹿川が氾濫しました。その後に水が引いていき、湯が沸き出ていることを偶然発見したことから、川治温泉の歴史が幕を開けます。

川治温泉は、鬼怒川と男鹿川が合流するポイントにあり「傷は川治、火傷は滝(現在の鬼怒川)」と伝えられるほど、傷の治療に効くとされ、静かな山間の良質な温泉として知れ渡っていきました。

 

 

具体的に3つの温泉ホテルを紹介します。

リブマックスリゾート川治

元々このホテルは「川治温泉ホテル」という名称で、この川治温泉一帯ではかなり早い時期から営業を開始していました。

やがて「源泉の宿 蘭綾(らんりょう)」と変わり、加水も加温も行わない、100%自家源泉のかけ流しが高い評判を得て、2017年まで営業をしています。

2017年以降は運営会社が変わり、リブマックスリゾート川治として低価格路線で営業を継続しています。

川治温泉の大きな特徴として、地表から浅い位置に自噴する豊富な源泉があります。源泉の枯渇が懸念される温泉地が多いですが、川治温泉であれば、多くの温泉ホテルで良質な自家源泉を贅沢に満喫できるのは大きな魅力です。

 

一柳閣本館

続いては、巨大な観光ホテル代表として一柳閣本館を紹介します。

1934年に、現在と同じ名称で一柳閣本館は誕生しました。

高度成長期やバブル期を経て、多くの観光ホテルが陥ってしまったように閉館を迎えてしまいます。

団体客増加

→増築増床を繰り返す

→不景気になる

→銀行の無責任積極融資が裏目に出る

→足利銀行破綻

→資金繰りが悪化した観光ホテルの倒産

という負の連鎖が起きて、2008年に倒産。同年に伊東園ホテルズが買収して、現在も営業を継続しています。

2000年代に入り、地理的にはすぐ手前にある鬼怒川温泉で倒産や閉館が連鎖したことで、鬼怒川温泉は「廃墟が立ち並ぶ温泉街」として不名誉な知られ方をするようになりましたが、川治温泉もまったく同じような時代の波が訪れて、閉館が相次ぎました。

 

川治プリンスホテル

1964年に創業した、金龍閣ホテルが前身となり、1972年に川治プリンスホテルが経営することになりました。ちなみに、西武グループの「プリンスホテル」とはまったく別物です。

途中から、川治プリンスホテル雅苑と名称を変更しながら、4回の大規模増築を行って収容人数250名程度の大型ホテルとなった矢先に、建物が全焼する大惨事が起きてしまいました。

1980年11月20日15時以降に火災が発生。一部の解体工事がきっかけで出火して、一気に燃え広がったようです。

18時45分には鎮火しましたが、建物は全焼、死者45名負傷者22名という、戦後の宿泊施設では最悪の大惨事が起きてしまいました。昼間の火災で、なぜこれほどの犠牲が発生したのでしょうか?

様々な資料に目を通すと、以下の3点に集約できるようです。

①誤った館内放送を行った

同じ日に、自動火災報知設備の工事も行っており、非常ベルが鳴ったものの「只今のベルは訓練です」と館内放送してしまいました。これにより煙を見て異変を察知するまでに時間がかかり、結果的に逃げ遅れてしまう大きな原因になりました。

②防火管理が行われていなかった

防火管理者が選任されておらず、当然に消防計画がない、避難訓練もされていない状況でした。年配の宿泊客が中心で大混雑していたわけではありませんでしたが、事の重大さに気づいてからの避難誘導ができなかったようです。

③迷路のような構造だった

昼間の火災であっても、かなりの犠牲が生じた背景には、増築を繰り返すことで、各階の接続や連絡通路が複雑に絡まっており、スムーズに逃げられない構造がありました。ただでさえ複雑な構造になっている大型ホテルで、チェックイン直後という、まだ館内レイアウトに不慣れな状況だった不運も重なりました。

この川治プリンスホテルの大惨事から翌年には、消防庁による防火基準適合表示制度(適マーク)が発足しました。

この大惨事をしっかり教訓にして、宿泊施設の運営もそうですし、利用する我々も防災意識を高める必要があると改めて考えさせられます。

現在この場所は、日本金型工業健保組合「川治温泉 金型かわじ荘」として営業しています。組合員が格安価格で利用する施設ですが、繁忙期を除けば一般価格で誰でも利用できるようです。

 

 

いかがでしょうか。

今回の記事では、川治温泉を知っていただくために、3つの観光ホテルを紹介しました。

リブマックスリゾート川治を通じて、川治温泉が豊富な自家源泉に恵まれていることを知っていただきたいですし、一柳閣本館を通じて、日本全体の景気に振り回された歴史を知ってもらえると思います。そして、川治プリンスホテルの悲惨な火災を通じて、日本の宿泊施設の安全基準が設けられた教訓も重要です。

 

鬼怒川温泉の弟分のような存在感の川治温泉ですが、しっかりとした個性を持っている温泉エリアですので、ぜひ機会があれば楽しんでみてください。