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芸大の学びと実際の仕事の関係性【製造職・ITエンジニア・公務員】(文星芸大キャリアガイダンス2020年)

2020年夏、栃木県宇都宮市の文星芸術大学で行ったキャリアガイダンス講座について、内容をまとめています。前回に続き、下書きと実際に行った講座の内容をミックスさせています。学生はもちろん、あなたが今後キャリアデザインを考えているのであれば、参考にしていただけると幸いです。

 

前回はサービス業・事務職・営業職について、実際に勤めていた方の職務経歴書を参考にしながら、それぞれの職種がどのような業務内容なのか、そして芸大で学びと業務内容にはどのような関係性があるのか紹介してきました。 

 

サービス業・事務職・営業職、この3つの職種の業務内容は違いますが「お客さまに喜んでもらう」「一緒に働く社員に喜んでもらう」といった本質は変わりません。芸術の種類だって様々ありますが、見てくれる人に喜んでもらいたい、という本質は一緒だと思います。

 

サービス業の場合は身近でしょう。何か買い物に行ったとき、食事に行ったとき、友達と飲みに行ったとき「〇〇が新発売!」「期間限定のセットが登場!」なんてPOPやポスターをよく見ると思います。例えば芸術を学んでいるみなさんなら

「もっと違うレイアウトで見せたら、わかりやすいのに…」

「色の使い方、フォントもどうにかした方がいいんじゃない?」

と考えてしまうんじゃないでしょうか。

私にはデザインのことはわかりませんが、みなさんがレストランに勤めたとして

「これから秋に向けて、梨をテーマにウチっぽいポスター作ろうよ」

と相談されても(指示されても)どうにか形にできるはずです。みなさんはどうしたって店長には業界知識や経験は負けてしまいます。今教わっているデザインに関しても教授には勝てないでしょう。少なくとも今は。

だけど、勤めている「レストラン業界で使うポスターを作る」ということに関しては、店長にも教授にも負けません。店長はデザインの素人ですし、教授はレストランのことはわかりません。この考え方はとても重要ですので、別の講座でしっかり時間割いて説明します。

 

事務職だって、一緒に働く社員のためにお知らせを作成したり、得意先に対して提案資料を作成したりします。いつもいつも決まったことを、パソコンでパチパチするわけではありません。ここでもデザインの知識、それでなるべく喜んでもらう考え方は変わりません。営業職も一緒です。「新製品が登場!」「他社より安いですよ」なんて一言で商品が売れるわけありませんね。

 

さらにみなさんは、サービス業・事務職・営業職、どの仕事に就くことになっても確実に活躍できます、と約束しました。芸術大学で学ぶみなさんには、他の大学生とは圧倒的に違う強みを持っているからです。

それは「ハマる力」です。仕事も趣味も、もちろんみなさんが取り組んでいる芸術も勉強も、成果を上げる人ってハマっている人ではないですか?ハマっている人は何も考えずに夢中になれます。ハマっている人は楽しんでいるので、ほっといても続けます。ハマっている人は、もっと頑張ろうとさらにハマります。

このことに関しては、これまでの学校生活でいろんな友達やクラスメートを見てきて、実感できるのではないでしょうか。繰り返しますが、みなさんは芸術にハマってこの大学に入学している時点で間違いありません。ハマれる人は、別のことにもハマれます。ハマれる仕事を探して、実際に仕事にハマったら活躍するしかありません。楽しみですね。

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ここまでは前回の復習です。

ここから本題ですが、今日は製造業・ITエンジニア・公務員の仕事を紹介します。この3つの職種は結果的にみなさんが就職先として選ぶことが多い職種です。仕事内容と芸大の学びがどのような関係性があるのか考えてみましょう。

 

製造業・ITエンジニア・公務員、そして芸術に共通するポイントは何でしょう。一見バラバラの仕事ですが、共通するのは2つあります。

1つは「ゴールをイメージする」です。製造業・ITエンジニア・公務員の仕事は普通は1日では終わりません。1人でも終わりません。さらに大きな仕事の一部のみを担当します。ボヤボヤ働いていると

「自分が作っているものって結局どうなるんだろう…」

「何のために働いているんだろう…」

となってしまいます。

ゴールを意識していると何が変わるでしょうか。何日もかかる仕事ですが、今日は何、明日は何、来週は何、と計画や筋道を考えることができます。

自分1人では何も完成しません。一緒に働くメンバーのことをよく知り「あの人の仕事の次に、自分の仕事があって、それが次に繋がって…」の全体の動きを理解することが成功のポイントです。これができないと、製造業では何も商品が完成しません。ITエンジニアは誰が何をやっているのか一目では把握できないので、しっかりとチームで打ち合わせをしておかないとさっぱり進まないでしょう。公務員は若干ニュアンスが異なりますが、教員を除くと基本的には民間業者とタッグを組んで仕事を進めます。

芸術は創造している時間は、ひょっとしたら1人でも進められるかもしれません。しかし、仕事になったら確実に組織やチームの中で仕事をすることになります。そして同じゴールをイメージして進めなければなりません。

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製造業では形があるもの、ITエンジニアは目に見えないもの、公務員は市民のためのサービス、とゴールはいろいろ違います。でも「ゴールをイメージする」ことが必ず必要な仕事です。これって芸術も一緒ですよね。彫刻でもマンガでもデザインでも、何もイメージなしに手を動かすことはないはずです。ちゃんとテーマがあったり、伝えたいメッセージがあるはずです。しっかりと完成形を描いてから手を動かすんじゃないかな。みなさんも芸術大学で勉強しながら、課題や卒業制作があってたくさんの作品をつくることになるでしょう。そのプロセスで「ゴールをイメージする」練習をしっかり積んでもらいたいと思います。みなさんが製造業・ITエンジニア・公務員の仕事に就くことになったら、確実に活かすことができる能力です。

 

そしてもう1つ。製造業とITエンジニアは「手を動かしながら考える」これも重要なポイントです。私自身の経験で話すと、仕事上たくさんのレポートを作成します。企業などに対して提案書も作成します。その他にも、現在はタウンワークマガジンの記事を作成したり監修しています。趣味では短編小説を書いています。最近はコンテストで入賞することができるようになってきました。私の周りを見ても、小説を書くサラリーマンってあまりいません。私が「趣味で短編小説を書いている」と言っても「よくそんな時間あるね」とか「よく書けるね」なんて言われます。私も最初は手が進まずに苦労したものですが、いろいろやっていくと書く方法がわかってきました。

書くためのポイントはこれしかありません。それは「手を動かしながら考える」です。書きはじめてみると「ここからどうしよう」書いてみると「書く前に考えていた内容と全然違うことを書いている」こんなことばっかりです。

つまり、書く前にゴチャゴチャ考えてもしょうがないってことです。たった一言でもいいから書きはじめる、これができるかどうかです。これはどの作家も変わらない意見のはずです。芸術の世界も一緒ではないでしょうか。

先ほど「ゴールをイメージする」というポイントを伝えましたが、ゴールがイメージできたら「書きながら考える」「作りながら考える」この技術をマスターできることも芸術大学で学ぶ大きなメリットです。

 

ちなみに…

「書きながら考える」「作りながら考える」つまり「手を動かしながら考える」これができるようになると、仕事するようになっても困りません。仕事が終わらなくて苦労する社員は、パソコンの入力が遅いわけではなく、パソコンの前で悩んでいる時間が長いものです。芸術大学で課題に追われたり、卒業制作に追い込まれたり、いろいろ大変なことはあるでしょうが、ぜひ「手を動かしながら考える」を意識して進めてみてください。これが実際の仕事に発揮されます。

では2つのポイント「ゴールをイメージする」「手を動かしながら考える」を念頭にしながら、芸大の学びと製造業・ITエンジニア・公務員がどのように関係するのか見てみましょう。

 

④芸大の学びと製造業の関係性

何を作るのか、また企業によって呼び名や範囲が大きく変わることがあるでしょうが、おおよそ次の仕事の種類(職種)があります。一口に「製造」「ものづくり」と言ってもそこで働くたくさんの役割があります。ここではパン工場を例にして、どのような職種があるのか紹介します。

◆企画  「1年後に売るホイップあんぱんのコンセプトを考えよう」

◇デザイン「どんな見た目、中身にしよう?」「パッケージは?」

◇開発設計「いったん食材や分量を決めて、作る準備をしよう」

◇試作  「いろんなパターンでホイップあんぱんを作ってみよう」

◇分析  「味はどう?」「安全性は?」

◆購買  「たくさん作るために食材を調達する先を探そう」

◆量産設計「大量生産するために、作る順番やロボットを考えよう」

◆生産技術「必要なロボットを生産ラインに組み込むには…」

◆生産管理「どのくらいのペースで作るか考えて指示を出さなきゃ」

◇製造  「ロボットがどんどん作って…できないところは人の手で」

◆設備管理「ロボット、生産ラインが壊れる前に修理しよう」

◇品質管理「出来上がりはどう?」「見た目、味、品質はどう?」

◆品質保証「販売店や買ってくれた方の声を聞いて改良しよう」 

◇物流~営業~販売~市場調査~

と数多くの職種、役割があります。

 

◆の職種は機械や電気に関する知識、または業界や商材に関する経験や専門知識が必要です。なかなか新卒や未経験での募集はありません。◇の職種であれば、例えば芸術大学で学んできた学生でも応募できる可能性が高いです。専門的な知識を必要とせず「スケッチやCGソフトを使ったデザインをやってみたい」「とにかく何かを作ってみたい」「作ったものを調べることに興味がある」といった志望動機があれば充分に応募できることでしょう。

製造業というひとつのカテゴリーにこれだけ職種が含まれていますから、結果的に就職する卒業生も多いです。実際に進むかどうかは別として、芸術大学で勉強していることを活かすならどれかな?自分がやりたいことに近い職種だったらどれかな?と考えてみることはオススメします。

 

外国製の商品も安く高品質になってきましたが、分野によっては世界をリードしている日本企業もまだまだたくさんあります。製造業は長く日本の産業を支えてきて、これからも必要な業界です。工場や設備が必要なので、どうしても働く場所が限定されてしまいますが、完成していく商品を見るのはやりがいに繋がりますし、正社員として何年も働くと新しい専門的な職種にチャレンジできますので、できる仕事の幅が広がります。これも製造業で働く魅力のひとつですね。

 

⑤芸大の学びとITエンジニアの関係性

ITは無形商材ですが、大きなカテゴリーでは製造業と変わりません。形があるないの違いはありますが、何年もかけて分業して、ひとつのものを完成させるという考え方は一緒です。

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ITエンジニアではどのような職種があるのか紹介します。例として、ドローンを使った宅配サービスを考えましょう。ドローンを作るのは製造業なので、そのドローンを動かすソフトです。ざっくりとシステムエンジニアと呼ばれる職種をSE、実際にソフトに打ち込むプログラマーをPGをして表しています。

◆企画          「宅配って何から何までをドローンにさせるの?」

◆(SE)要件定義     「ドローンのカメラは?操縦性は?」

◆(SE)システム構造設計 「カメラはどう動かす?」「プロペラは?」

◆(SE)プログラム構造設計「どういうプログラムが必要なのか考えよう」

◇(PG)プログラミング  「分担してとにかく入力する」

◇(PG)テスト・デバッグ 「プログラムが動くか試してみよう」

◆(SE)システムテスト  「それぞれのプログラムを合体しても動く?」

◆(SE)運用テスト    「実際に宅配できるか試してみよう」

◇アフターサービス    「買った方の質問や要望を対応する」

これも開発企業や何を開発するかによって、業務全体の流れや分担の仕方が大きく変わります。ここでは代表的な例として紹介しました。

SEが設計したものはSEがテストする、PGが打ったものはPGがテストする、そのようなイメージです。正社員として入社すると最初にPG、それからプロジェクト全体を管理するSEというキャリアアップが多数派です。意外とプログラムが細分化されていれば、プログラマーとして初心でも取り掛かることはできます。

やはりSEでもPGでも「ゴールをイメージする」が重要です。全体として何を作っているのか、そのうち自分が手掛けているのは何なのか、ここがズレるとチーム全体の足並みが揃わないですね。プロジェクトの成否を決めます。

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IT業界に興味があるのであれば、遠慮なくプログラマーとしてスタートしてみて良いでしょう。将来的に何を作りたいかによって、主要な言語が変わりますので最初からイメージしておくと近道です。ここもゴールを意識ですね。ロボットを動かしたいのか(Cなど)データや解析を専門的にやりたいのか(Pythonなど)アプリを開発したいのか(Javascriptなど)ホームページなど作りたいのか(HTMLなど)下調べだけしたら独学でも進めることは可能です。

オススメはキッズ向けのプログラミング教室で講師をやってみることです。

キッズ向けなので構造は単純です。そして教えることで確実に自分自身の理解が早まります。今は本格的なプログラミングを教える教室も増えましたので、アルバイトでも経験しておくと大きな一歩リードです。

 

IT業界の拡大はこれからも止まることはないでしょう。活躍できるフィールドは広く、現在存在しない職種も新しく登場するに違いありません。工場や設備も不要、世界中のエンジニアと連携しながら作ることもできるし、自分ひとりだけでも完成させられるのは大きな魅力ですね。

働き方も応用しやすいのがITエンジニアですが「ゴールをイメージする」「ゴールイメージを共有する」これがポイントであることは変わりません。

 

③芸大の学びと公務員の関係性

公務員は教員を除くと、ほぼ1人では仕事が進みません。公務員が2人いれば進むのか?10人いれば進むのか?というと進みません。誤解されてしまうかもしれませんが、県職員だろうが市職員だろうが、公務員だけでは何もできないに等しいです。

 

公務員はほとんどの場合、仕事を進めるために民間企業と連携しながら進めます。予定している事業を、仕様書という書類にまとめます。

仕様書とは「ここを工事して学校を移転しよう」となったときに、主なスペックをまとめたものです。「どのように工事してほしい」「学校のサイズはこのくらい」「こういう設備の学校を建てたい」「工事費はどんなに高くてもこれくらい」といったゴールイメージを数字と文章でまとめます。

この仕様書を前提に、民間企業が手を挙げて土木工事をする企業、建設工事をする企業、設備工事をする企業、様々なチームを形成します。つまり市役所の職員が建設するわけないので、ゴールイメージを民間企業と共有して、その通りにゴールするように導くことが必要です。もちろん建設のように形があるものばかりではないので、保育事業、介護事業、納税手続き、学校関連、のように数え切れない事業の種類があります。やはり仕事をスムーズに進めるポイントは「ゴールをイメージする」です。

 

私自身も苦労した覚えはありますが、こちらが企業として進めたい内容と仕様書がずれることが頻繁にあります。そこで問題を発見して軌道修正する、このようなマネジメント能力が必要です。

公務員を目指す学生は「安定しているから」「民間企業は避けたいから」「親がそうなので…」のような積極的な理由でないことが多いですが、ぜひ縦割りの上下がはっきりしている組織で、民間企業も巻き込んだマネジメントをしてみたいのであれば面白い環境です。数年で所属部署が変わるし、なかなか芸術大学で勉強した内容と繋がる機会は期待できませんが、意外と創造的な仕事も多いので、興味があるなら公務員試験にチャレンジしてほしいですね。

 

キャリアコンサルタントとしての個人的な見解ですが、転職市場では公務員キャリアは武器にならないです。専門的なスキルを習得できるわけでもなく、オールマイティーに何でもこなすほど自由でもないので、公務員から民間企業に転職するなら若いうちが勝負ですね。公務員で30~40代を迎えて、いくら「マネジメントしてきました」とアピールしても、すっかり牙を抜かれた状態で競争社会に飛び込むのはリスクが大きいのも事実です。もちろん、民間企業のサラリーマン以上の努力をして、本当に優秀な公務員の方もいます。あなたが公務員試験を検討しているようなら、使命感や公共性の高い業務内容に魅力を感じられるかどうか、考えていただきたいと思います。

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今回の講座についてまとめです。結果的に製造業・ITエンジニア・公務員に就職する学生は多いです。今はぼんやりだったとしても「ひょっとしたら将来飛び込むかもしれない業界」と意識してもらえると、就活で慌てることは少なくなるでしょう。

「ゴールをイメージする」というポイントを紹介しましたが、就活においても同様です。自分のゴールはどこなのか?ぜひ今から考えてみてください。