小学生にも知られているライト兄弟ですが、その飛行機「ライトフライヤー号」を復元しても飛ばすことができなかった、というエピソードを知っていますか?
- 人は自分の思い込みを証明しようとする
- ライト兄弟の幼少期~
- ライト兄弟のビジネスセンス
- 有人飛行へのチャレンジ
- 安定性ではなく操縦性
- 世界初の動力有人飛行へ
- 飛ばないライトフライヤー号
- なぜ飛べたのか?
- うまくいくかどうかを分けるもの
ライトフライヤー号はライト兄弟が作って世界初の有人動力飛行に成功した飛行機です。その設計図をもとに現代に作り直しても飛ばないというエピソードを紹介します。
決して世界初の記録がフェイクニュースというわけではありません。しかしながら、当時のライトフライヤー号を再現しても飛ばない、飛ばすことができないようです。どういうことでしょうか…
ここにいつの時代も変わらないキャリア形成のヒントがあります。
人は自分の思い込みを証明しようとする
キーワードは思い込みです。
誰だって何かしらカベを目の前にしたときに、自分の思い込みを証明しようとするものです。同じ難しい目標を与えられたときに「こんなの無理だよ…(やってみたら)ほらやっぱり難しいよ…」とネガティブな発言ばかりの方がいます。
その一方で「やってやろうじゃん!やればできそうだよ!どうすればできるかな?」とポジティブに捉えてチャレンジする方もいます。
ライト兄弟の世界初の有人動力飛行、これほどわかりやすく思い込みの力を証明したエピソードは珍しいですね。私は学習塾部門で生徒に教えたりすることもあるのですが、勉強受験にもそのまま応用できます。
大切なところだけピックアップしてライト兄弟をざっと紹介します。
ライト兄弟の幼少期~
◆ライト兄弟、幼少期は祖父の家で機械にいち早く触れて興味を持っていました。100年以上も前の話です。
足踏み旋盤で木を回して刃を当てることで、どんどん丸い木を作っていく機械です。この様子を見て、人が何日もかけてやるような仕事を機械だと早く正確にできることを実感しています。感動って大切です。
◆兄弟はある日、友達と競争するために雪用のソリを作ります。木を貼り合わせて作るわけですが、このときのお母さんの関わり方が素晴らしいです。いきなり作るのではなく、まずは作り方を考えて、それから設計図を書いてみせます。
友達のソリよりも高さが低く、長いソリの設計をしましたが「空気抵抗」をこのタイミングで教えちゃいます。
◆もちろんソリの競争はぶっちぎりで優勝しました。
兄弟2人は同じことを考えます。ひょっとしたら舵を付ければ、もっと早く上手に曲がれるのではないか?と相談する様子をお母さんは何よりもうれしそうに見ていたようです。いいエピソードです。もちろんお母さんはその後の改造に手を出しません。
◆調子に乗って兄弟は、もともと手伝いをしていたおじさんのために荷車を作ります。車輪だけは使い回しで作るのですが、その車輪がうまくスムーズに回りません。悩んだ兄弟にお母さんが軸を細く削ることで回りやすくする提案をします。
ここで「摩擦」を教えます。このお母さんはただ者ではありません。
◆その頃、お父さんがお土産で買ってきたヘリコプターを兄弟に渡します。何度も飛ばしてみて、結局壊れてしまうくらい「なぜ飛べるのか?」を勉強します。次からは兄弟が自分達でヘリコプターを作ってしまいます。
ここでタイムリーなおみやげを渡すお父さんも、ただ者ではありません。
ライト兄弟のビジネスセンス
◆その後、印刷機械に興味を持って印刷会社をはじめて地元新聞の販売をはじめます。忙しくなりすぎた頃に、当時流行の兆しがあった自転車に注目します。
ライト兄弟はビジネス面でもフットワーク軽くチャレンジして、資金面でも成功していることはポイントです。
◆「ライト自転車商会」を立ち上げます。修理して新品同様にするだけでは物足りなくなり、結局新品を作って販売します。その一台が「ライトフライヤー号」という名前です。
ちょっと脱線しますが「ライト自転車商会」や「ライトフライヤー号」の名前を広めるために自転車レースに出て優勝してしまうセンスは、現代のプロモーションに通用します。
◆この頃にはすっかり兄弟は大人です。ちなみに兄はウィルバー・ライト、弟はオーヴィル・ライトです。7人兄弟の3番目と4番目のようですが、上の2人についてはよくわかっていないようです。また2人にはキャサリンという妹がいたのですが、早くに亡くなったお母さんの代わりに家事全般だけでなくマネジメント業務や広報的な役割を担ったことも見逃せません。
有人飛行へのチャレンジ
◆1849年、イギリスの工学者ジョージ・ケイリーがグライダーによる有人飛行を成功させます。その後、ドイツのオットー・リリエンタールがグライダーの研究を続けて2000回以上の飛行実験を行います。
残念ながらリリエンタールは、1896年にグライダーによる事故で亡くなりますが、その膨大な飛行実験のデータをライト兄弟は分析して活用しています。
ちなみにリリエンタールが発見した、翼にキャンバー(断面がふっくら上に盛り上がっている形状)があった方が、より遠くまで滑空できる原理はライト兄弟に引き継がれ、現在の飛行機にも応用されています。
◆1900年、ライト兄弟はキティホークでグライダーを飛ばせることに成功します。1号機は重さ23.4キロ、翼面積は14.85平方メートル製作費はわずか15ドルです。
2号機の翼幅は6.6メートル、3号機の翼幅は9.6メートルと将来的にはエンジンを搭載することを前提に徐々に大きく改良していきます。
◆グライダー型の凧を使って実験を繰り返してから有人グライダーに移るわけですが、2枚の翼があるうち下の翼にうつ伏せになって操縦するスタイルを採用します。
ここに至るまでに、リリエンタールだけでなく、世界中の研究家が行った飛行実験のデータを取り寄せたり、200体以上の縮尺模型を使った風洞実験を繰り返したり、科学的なアプローチが行われています。
ただの根性と飛行技術だけで飛んだわけではないことがよくわかります。
安定性ではなく操縦性
◆グライダーでの1000回以上の飛行実験と改良を重ねることで、画期的な方針を打ち出します。それは
「飛行機は安定性を追求するのではなく、操縦性を追求することが重要だ」
ということです。ここが他の発明家との決定的な違いです。操縦で方向を変えるために翼を捻ったり後方の方向舵を動かすのですが、この2つを連動させて「空力的に操縦する能力」をマスターします。
◆例えば、飛行機を右に傾けようとして腰を右に動かすと、右の主翼が下を向くだけではなく、方向舵も右を向いて機首を右に向かわせるのでバランスの良い旋回をすることができます。
ライト兄弟以前の飛行機は、まるで船のように方向舵のみで進行方向を変えようと考えていたので、非常に画期的な発明でした。
◆開発した「フライヤー1号」は主翼を上下に2枚持つ複葉機です。
主翼の前方に昇降舵、後方に方向舵と2枚のプロペラが付いています。機体を軽量化するために車輪は付けず、木のレールの上にトロッコを乗せ、その上に機体を乗せて滑走させる仕組みでした。
翼幅12.3メートル、全長6.43メートル、総重量340kg、小型セスナとほぼ同等の大きさです。下写真は、三沢航空科学館に展示されている復元モデルです。
◆動力はガソリンエンジンを採用します。当然ながら、飛行機用のエンジンなどあるはずもなく、16馬力4気筒、69kgの強力な小型軽量エンジンを自作してしまいます。
さらに「ライト自転車商会」の経験を活かしてチェーンで繋ぎ、プロペラに付けます。プロペラ理論などなかったはずですが、片方のチェーンを途中でひっくり返して左右のプロペラを逆回転させることで機体の安定性を高めています。
世界初の動力有人飛行へ
◆1903年12月14日、ライト兄弟はウィルバーの操縦で動力有人飛行に成功します。
3.5秒、31.5メートルを見事に飛んだのですが、この飛行は不満足だとして兄弟は世界初の記録と認めなかったようです。
◆12月17日、今度はオーヴィルの操縦で12秒、高さ4.2メートル、距離36メートルを飛びます。これが人類初の歴史として残っています。
最初の目撃者はたったの5人(漁村の2人、救命事務所の3人)でした。操縦を順番に交代しながら2回目は13秒58メートル、3回目は15秒60メートル、4回目は59秒260メートルと記録を伸ばしました。
◆そこから改良を重ねて飛行距離、飛行時間をどんどん延ばしました。
その後は同じような飛行機を作ろうする人や企業が急増して航空産業も盛んになり今に至ります。1回でも「飛べるんだ!」とわかれば爆発的に進化します。
飛ばないライトフライヤー号
◆初飛行から100年、2003年の100周年イベントで当時のライトフライヤー号を復元して飛ばすチャレンジがありました。
風が弱かったという外的要因も大きいのですが、飛ばないどころか墜落して壊れたり散々だったようですね。1000回以上の飛行実験を繰り返して操縦できるライトフライヤー号を、いきなり現代のパイロットが操れるわけありません。
ライト兄弟の「飛べるはず」という思い込みがなければ、世界初の動力有人飛行は実現しなかったでしょう。すべての成功は思い込みからスタートするとも言えます。「飛べるはず」と思い込んでいれば
「なぜ飛べなかったんだろう」
「どうすれば飛べるんだろう」
という発想力、行動力につながります。
なぜ飛べたのか?
このエピソードの面白いところは、ライトフライヤー号が誰でも操れるような優れた飛行機だったわけではないところです。ライト兄弟が世界のどこにも存在しない、変わった飛行機を飛ばす飛行技術をマスターしたからこそ、世界初の動力有人飛行が実現したことでしょう。
・ライト兄弟は、操縦性に優れた飛行機を開発したから飛べた!
・そして、世界一ライトフライヤー号を飛ばす練習をしたから飛べた!
とも言えます。
思い込みって人間特有の能力です。機械にはアップデートできない技術でしょう。どんなにテクノロジーが進化してAIやロボットが人間の代わりを果たすようになっても
①好奇心を爆発させる
②「できるはず」と思い込んで夢を追いかける
③人の力も借りて相乗効果を生む
このような目に見えないスキル(非認知スキル)が人間の重要な能力です。むしろここを失ってしまったら、ロボットだけで社会が回るつまらない未来が待っています。
思い込み、発想力、行動力が弱いと
「やっぱり無理かな」
と気持ちから折れてしまいます。
気持ちが折れてしまうと、ちょっとしたミスやカベにぶつかるだけで
「やっぱり無理じゃん…」
と、できない理由を並べて、無理であることを証明しようとしてしまいます。
これは受験や仕事でもそのまま当てはまります。
うまくいくかどうかを分けるもの
うまくいくと思っていなかったら頑張りが続かないですし、いいアイディアは浮かびません。
余談ですが、キャリアコンサルタントとして転職支援を行うときも、私の考え方はまったく一緒です。私も求職者も「この転職はうまくいく」って思って入社すれば、その転職が成功する可能性はグッと高まります。
「この会社で活躍できるはず」
と思い込んでいるから、活躍できることを実際に証明しようとします。
冒頭に紹介した
「人は自分の思い込みを証明しようとする」
という考え方を上手に自分に活かしましょう。
これができると周りの人達にも応用できるようになります。このマインドで入社できれば努力も工夫も続きます。エネルギーも湧いてきます。周りの社員ともきちんと連携が取れるようになります。まさにライト兄弟に学ぶ
①好奇心を爆発させる
②「できるはず」と思い込んで夢を追いかける
③人の力も借りて相乗効果を生む
を具体的な行動として進められることでしょう。
「この決断で、より良い人生になると思い込めるだろうか?」
考えていただけると幸いです。
参考文献はこちらです。
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