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本当に経営統合するの?【大江戸温泉物語と湯快リゾート】2024年5月現在

2023年夏、2つの全国展開しているホテルチェーンが、経営統合するニュースが流れました。その統合する2つのホテルは、大江戸温泉物語と湯快リゾートです。

どちらのホテルも、バブル崩壊後の平成時代、閉館した大型ホテルを次々と買い取り、格安でリーズナブルなホテルとして、大いに反響を呼びました。

2024年の春を目標に経営統合する、というニュースから半年以上...

「もう5月ですが、本当に経営統合するんですか?」

という疑問もあるのですが、個人的には

「なぜこの組み合わせなの?」

という謎の方が大きいです。

その裏には、伊東園ホテルズの存在があり、それぞれの歴史を紐解いていけば、そこにどんな疑問が隠れているのか理解していただけると思います。

ぜひ最後までお付き合いください。

(2024年5月現在の情報です)

 

大江戸温泉物語

大江戸温泉物語のスタートは、近年閉館してしまった「お台場 大江戸温泉物語」であったことは知っている方も多いと思います。しかし、そもそものきっかけが、1996年に予定されていた世界都市博覧会の土壇場での中止だったことを覚えている方は、少ないのではないでしょうか。

都知事選で大接戦を制した青島幸男氏が中止を決め、予定地活用の一環として、2003年に誕生したのが、日本初の温泉テーマパーク「お台場 大江戸温泉物語」でした。

当時の有名な実業家が手掛けたのですが、個人的には「大江戸温泉物語」というネーミングが秀逸だったと思います。

 

その後、バブル崩壊の煽りを受けて閉館した巨大ホテルを買い取り、大江戸温泉物語としてリニューアルするビジネスモデルへと発展していきます。

2007年の「湯屋あいづ」を皮切りに、充実のバイキング形式、ファミリーをターゲットにしたイベント企画を武器に、全国展開していきます。

2015年から外資によって買収されて、豊富な資金力とオペレーションの効率化を進めて、さらなる成長を遂げていきます。

2016年には世界初の、温泉ホテルに特化した投資法人「大江戸温泉リート投資法人」を立ち上げて、拡大資金の確保をしていきます。

2022年から、今回の経営統合のキーポイントである、ローンスターファンドの傘下に入りました。ベーシックな大江戸温泉物語から、グレードの高い大江戸温泉物語premium、高級リゾートに寄せたTAOYA、など複数ブランドを展開して現在に至っています。

外資による投資対象となって運営している面はありますが、資産管理と現場運営を別々の会社で分担するメリットも大きいです。単体の地元企業では不可能なレベルで、買収やリニューアルなどを判断することができます。

 

2024年初頭には、大江戸温泉リート投資法人はアパホテルの傘下に入ることになり、そして冒頭に紹介した、湯快リゾートとの経営統合が待っています。

2024年現在、東日本を中心として、近畿~四国~九州まで広いエリアで38館が運営しており、一部ですが湯快リゾートと競合するエリアもあります。

今でも鬼怒川温泉のように、同じ大江戸温泉物語で競合しているエリアはありますので、そのあたりは気にしていないのかもしれません。

 

湯快リゾート

一方の湯快リゾートは、京都に本社がある東愛産業(現:TOAI)が発祥です。

1986年に創業、現在もチェーン展開しているジャンボカラオケ広場、通称ジャンカラの事業を開始しました。

飲み放題や歌い放題のような、現在は主流になっているリーズナブルなサービスを武器にして、2024年現在で180店舗を運営してます。

この東愛産業の関連会社として、2003年に創業したのが湯快リゾートです。

閉館、廃業したり、競売にかけられているホテルを格安で買収してリニューアルオープン、効率的なオペレーションによってリーズナブルな価格設定をする経営手法は、大江戸温泉物語によく似ています。

湯快リゾートは、石川の加賀温泉郷にある「彩朝楽」を皮切りに、30館を展開しています。

2019年に投資会社に売却して、2023年からローンスターファンドの傘下に入っています。スタンダードやプレミアムのように、価格帯によってホテルのブランドを使い分けており、このあたりの現在に続く流れも大江戸温泉物語とそっくりです。

 

ここまで、東京発祥で東日本を中心に展開している大江戸温泉物語、京都発祥で西日本を中心に展開している湯快リゾートの歴史を紹介してきました。

この2つのホテル、ビジネスモデルや客層はかなり近いと思いますが、もうひとつ忘れてはならない温泉ホテルがあります。伊東園ホテルズです。

 

伊東園ホテルズ

伊東園ホテルズの歴史は、カラオケチェーンの歌広場からはじまります。

東京で様々な事業を行っていた創業社長が、1989年にカラオケの1号店、1994年から歌広場として本格的にカラオケ事業に参入しました。

安心の前金制、フリードリンク、格安物件を買い取って低価格でサービス提供をすることで、カラオケ事業は大注目を浴びます。

2001年に、社員向けの研修所として買い取った伊東園ホテルを、リーズナブルな格安ホテルとして運営したことから、現在の伊東園ホテルズに繋がります。カラオケ事業で培った成功パターンを、ホテルビジネスに応用させた功績は大きいと思います。

伊東園ホテルズも、年中同一の低価格、食べ放題のバイキング、低コスト運営をすることで、2000年代初頭に急成長しました。2024年現在、東日本を中心に50館を展開しています。この流れ、湯快リゾートでも見ましたよね。

 

湯快リゾートと相性が良いのは?

伊東園ホテルズは、カラオケ事業の経験を応用することで、格安で泊まれる温泉ホテルとして成長しました。

この伊東園ホテルズの成長のきっかけ、そしてビジネスモデル、振り返ってみると湯快リゾートにそっくりです。両社が展開しているエリアを見てみましょう。

公式HPを切り貼りした、少しわかりにくい図ですが、右が伊藤園ホテルズの出店エリア、左が湯快リゾートの出店エリアです。

伊藤園ホテルズは、西は静岡まで、中部は長野まで、北陸は新潟まで。これはキレイに湯快リゾートとエリアを分けています。避けているというレベルではなく、どこの温泉地でもまったく競合していません。

 

まとめてみると...

カラオケ事業がスタートしたのが、西日本のジャンカラが1986年、東日本の歌広場が1994年。

ホテル事業に進出したのが、東日本の伊藤園ホテルズが2001年、西日本の湯快リゾートが2003年。

カラオケもホテルも似たようなビジネスモデルであり、エリアもキレイに分かれています。

それもそのはず、それぞれの社長は兄弟なのです。

弟の方が、いち早く西日本でジャンカラを開始。ここから先は私の想像ですが、おそらく兄は、弟の事業をかなり参考にしながら、東日本で歌広場を成功させます。

ホテル事業に着手したのは、兄が先でした。伊東園ホテルを2001年に買収、そこから格安ホテルの成功パターンを固めて、2003年に弟が湯快リゾートを開始して成長させていきます。おそらく成功事例を共有しながら、切磋琢磨した歴史があったに違いありません。その一方で、カラオケもホテルも、競合することがないようエリアが分かれています。

 

同じローンスターファンドの傘下に入った、大江戸温泉物語と湯快リゾートが経営統合することは、ある意味自然な成り行きです。しかしながら、よく言われている事例では、経営統合やM&Aにおいては、社風や理念の共有がもっとも難しいと聞きます。

そういう意味では、伊東園ホテルズと湯快リゾートは、歴史や企業理念を共有しているでしょうし、ホテル運営の仕組みもかなり近いはずです。

余計なお世話であるとは思いますが、資本関係の違いさえなければ、湯快リゾートにとっては、伊東園ホテルズの方がベストパートナーだったのではないか、と考えてしまいます。

 

 

もちろん、まったく違う社風の2社が化学反応を起こす可能性もありますので、大江戸温泉物語と湯快リゾートのこれからには注目したいと思います。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。