2023年の春から夏にかけては、福島第一原発事故によるALPS処理水について、賛成・反対の議論がかなり活発でした。
処理水を保管しておくタンクが限界になりそうな状況で、地元をはじめとした国民の同意を完全に得ていたわけではないように感じています。あれから5回にわたって処理水の放出が行われましたが、現状はどのようになっているのでしょうか?
ALPS処理水とは?
素人によるざっくり理解ですが、ALPS処理水は以下のように作られて増え続けています。
①2011年の東日本大震災によって、福島第一原発で水素爆発が起きました。その原因や問題点は、ここでは触れませんが、内部の核燃料が溶け出してむき出しの状態になりました。
②その核燃料は、常に冷やさなければならないため、毎日100トン程度の水をかけ続けています。ここで放射性物質を含んだ汚染水が発生します。
③かけている水だけでなく、雨や地下水も核燃料に触れるので、そこでも汚染水が発生してきました。
④この増え続ける汚染水を、ALPS(多核種除去装置)と呼ばれる仕組みで、トリチウム以外の放射性物質を取り除いたものが、ALPS処理水です。現在は福島第一原発の敷地内で、1,000基以上のタンクに保管されており、容量キャパの98%、もうこれ以上は保管できない状況になったのが、2023年です。
ALPS処理水をどうする?
もう溢れそうなALPS処理水は、ほとんどの放射性物質を取り除いたとはいえ、どのように処分するのか問題となります。大きく分けて5つの案がありました。
①地層に注入する
地層の隙間に流し込む方法です。
これは安全かどうかの前に、ルールが存在せず、周辺の地層を調べる方法、注入後のモニタリング方法など、技術的、時間的な問題が山積でボツとなりました。
②地下に埋設する
これは、ALPS処理水をセメント系の材料に混ぜて固めて、さらに地下に埋めてしまう案です。
これは結局、処分する広大な敷地が必要になること、これもルールが存在せず、安全性も不透明なことからボツでした。5つの案のなかでは、もっとも計算できないくらいコストがかかるようです。
③水蒸気にする
これはALPS処理水を加熱して、水蒸気にしてしまう案です。まるで小学生の理科実験みたいですが、アメリカのスリーマイル島のメルトダウンが起こった際に、採用された方法です。大気中のモニタリングは難易度がさらに高く、コストも海洋放出の10倍という予測からボツでした。
④水素に変換させて放出
目の上のタンコブとなっているトリチウムは、三重水素とも呼ばれており、構造や性質は水素の仲間のようなものです。もっともスマートな方法なので、これが答えになりそうですが、水素に変える技術を開発するには時間が足りず、水素を扱う危険性があるので見送りとなりました。
⑤薄めて海洋放出
そういうわけで、採用された方法は、トリチウムが気にならないくらい海水で薄めてから海に放ってしまう、という、時間的にも予算的にも現実的な手段で着地しました。
沿岸から1km離れた場所で、海水で100倍以上に薄めたALPS処理水を、30~40年かけて放出するという、一見すると原始的で、途方もない時間をかけて解決に動き出したわけです。
海洋放出は安全なのか?
東京電力によって、モニタリング結果は常時見られるようになっています。
大きく注目された1回目の海洋放出は、2023年8月24日でした。
【1回目】2023年8月24日~9月11日
【2回目】2023年10月5日~10月23日
【3回目】2023年11月2日~11月20日
【4回目】2024年2月28日~3月17日
そして、2024年度最初の海洋放出が行われました。
【5回目】2024年4月19日~5月7日
今後は真冬を除き、毎月のように一定の海洋放出が行われる予定です。
1回の海洋放出で、7000~8000㎥のALPS処理水を海に流しており、トリチウム濃度は1リットルあたり189~266ベクレルの範囲に収まっています。
海洋放出にあたっては、海水で数百倍に薄めて、1500ベクレル未満にすることを条件にしていますので、基準は充分に満たしていることになります。
とはいえ、これを数十年行うわけですから、長期間にわたる影響、トリチウム以外に含まれている放射性物質、国内外の反応など、これからも関心を持つことが重要だと考えます。
風評被害と日本の強さ
ALPS処理水の海洋放出については、国内の慎重意見だけでなく、海外では輸入停止などある意味わかりやすい反応も多々見られました。
海産物を中心とした輸入停止だけでなく、日本産の農産物や化粧品の不買運動、福島県に対する不毛なイタズラ電話やSNSのデマなど、目に余る状況でした。
2024年5月現在も、中国による輸入停止は続いており、経済的なダメージは甚大です。
ここでは、科学的な安全性や政治的な思惑については触れませんが、個人的に2023年の後半にかけて「国内消費で福島を応援しよう」という動きが活発になったことは、とても印象的でした。
代表的なところでは、いわき市のふるさと納税が、申込件数で約10倍、金額で約8倍、品切れも発生するほどの社会現象が起きました。
輸出ができなくて困っている漁業関係者を、国内で積極的に消費して応援しようという動き、改めて冷静に考えてみました。
海洋放出の是非に関わらず、震災からすでに13年、こんなことができる国って日本以外にあるのだろうか...ちょっとどころでなく、誇らしい気持ちになります。うまい言葉が見つかりませんが、これは日本の強さと表現しても良いと思います。
私自身もふるさと納税で注文するまで、コメ農家が何年も稲を植えることすらできなかった事実を知りました。同じような思いの方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、ALPS処理水とは何だったのか?そして海洋放出がはじまってから感じたことをまとめてみました。
何かしら皆さんの参考になると幸いです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。