キャリアに関する場でしばしば登場する「キャリア・アンカー」を解説する記事です。
私もそうですが、キャリアコンサルタントは求職者と面談をする際に「この方の軸って何だろう?」と考えながら話を進めます。軸がはっきりしている方もいますし、イマイチはっきりしない方もいます。しかしながら『必ず転職のような大きな判断の場面では軸に基づいて決定するはず』というのがキャリア・アンカーの考え方です。
栃木県のキャリアコンサルタント、吉田です。
軸は自分軸、他人軸と大きく分かれます。自分軸は自分の判断基準で考えられる方、他人軸は他人や環境からの影響を大きく受けながら考える方です。あなたはどちらでしょうか?どちらが良いということではなく、そのことを自覚していれば、良い判断ができるということです。
このことを詳しく研究したのが、シャイン教授です。マサチューセッツ工科大学の教授であり、組織心理学の研究者です。シャインの理論は重要なものが2つあります。
①キャリアの主要発達段階
②キャリア・アンカー
について順番に解説します。
①キャリアの主要発達段階
これについては現代では感覚的に合わない部分も増えてきましたし、かなり属人的な要因で変わってきます。シャイン教授はキャリアを
・人の一生を通じての仕事
・生涯を通じての人間の生き方、その表現の仕方
と捉えていました。各ステージの順番やその内容については参考になるはずです。
ステージ1【成長・空想・探求】(0歳~21歳)
「この頃のキャリアは、ひとつの考えでしかなく、どのような職業を選択したとしても、その後必要となる教育訓練に備える段階である」
ステージ2【教育と訓練】(16歳~25歳)
「仕事の目標が明確化されたり、変化するために何らかの選択をすることが必要になる。ある職業に関しては、このステージで早めの意思決定を行い、教育と訓練を受けることが必要になる」
ステージ3【初期キャリア】(17歳~30歳)
「仕事がどのようなものか、仕事に対してどのように取り組むかについて学ぶ時期。組織との相互発見の時期でもある。仕事の義務を果たす際の自分の才能、動機、価値観などが本格的に試されることになる」
ステージ4【中期キャリア】(25歳~45歳)
「組織内で明確なアイデンティティを確立する時期。長期のキャリア計画を立てる時期でもある。キャリア計画には仕事、家庭、自己の3つの領域が統合されるように調整する必要がある」
ステージ5【中期キャリアの危機】(35歳~45歳)
「これまでのキャリアを再評価し、現状維持かキャリアを変えるか、新しいより高度な仕事に進むか決定する。キャリア・アンカー(個人のキャリアの在り方を導き、方向を示すイカリ)の意味を考える」
ステージ6【後期キャリア】(40歳~定年)
「管理者、メンターの役割を果たす。自己の専門性を高めるが、一方で組織内における自己の重要性の低下を受け入れる」
ステージ7【衰えと離脱】(40歳~定年)
「引退に向けて準備を行うようになる。地域活動、家庭、趣味など新たな満足を得られるものを探す。配偶者との関係を再構築する」
ステージ8【引退】
「自己のアイデンティティと自尊感情の維持、自分のこれまでの経験と知恵を活かす。他社への支援とその役割発見の時期」
キャリアの話では「年齢は関係ない」と主張する方も多いです。私自身もどちらかといえば「年齢や経験を上手に活かす」という考え方なので、1~8のステージの順番について、全員に無理に当てはめる必要はないと考えます。
ただし、実際のキャリアカウンセリングの場面では
「この方に対しては、ステージ2を意識させた方がいいな」
「この方のモヤモヤは【中期キャリアの危機】に当てはまるかな」
と考えてアドバイスすることは多々あります。
②キャリア・アンカー
ステージ5でキャリア・アンカーという言葉が登場します。
シャイン教授の代名詞とも言われますが、彼のキャリア理論の中でも重要な意味を持っている考え方です。アンカーとは船が波で流されないように留めるためのイカリ(錨)なので、直訳すれば「キャリアのイカリ」です。
キャリア・アンカーは長期的なキャリア形成において、拠り所となるものであり、キャリア選択の場面に直面して初めて見えてくるものです。
シャイン教授は8つのキャリア・アンカーを考えました。キャリア形成、キャリア選択を行う際に、あなたがどのキャリア・アンカーを持っているのか分析することができると思います。以下の8つです。
A 専門コンピタンス
「企画、販売、人事、財務経理、エンジニアリングのように特定の分野で能力を発揮することに幸せを感じる」
B 経営管理コンピタンス
「組織内の機能を相互的に連携させ、対人関係を処理し、チームを統率する能力を発揮する。組織の期待に応えることに幸せを感じる」
C 安定
「経済的安定を目指す。1つの組織に対して、忠誠や献身が見られる」
D 起業家的創造性
「新しいものを創り、障害を乗り越える能力を発揮する。何かを達成すること、達成したものが自分の努力によるものだという欲求が原動力となる」
E 自律(自立)
「自分のやり方で仕事を進めていく。組織に属している場合、仕事のペースを自分の裁量で自由に決めることを望む」
F 社会への貢献
「暮らしやすい社会の実現、他者への救済、教育など価値あることを成し遂げる。転職してでも、自分の関心が高い分野にチャンスを求めることもある」
G 全体性と調和
「個人的な欲求、家族の願望、自分の仕事などのバランスや調整に力を入れる。それができるような仕事を考える」
H チャレンジ
「解決困難に見える問題、人との競争にやりがいを感じる。目新しさ、変化、難しさ自体が原動力や目的になる」
キャリア・アンカーを知ることで、あなた自身のキャリアの方向性を明らかにできます。転職先を探すような場面がもっとも考えるきっかけになるでしょう。真正面から自分と向き合ったり、キャリアカウンセリングを通じて、あなた自身のキャリア・アンカーを発見しましょう。